カラヴァッジョ展で「法悦のマグダラのマリア」を鑑賞。巡回はある?

上野の国立西洋美術館で開催していたカラヴァッジョ展に行ってきました。2016年は日伊国交樹立150周年記念ということで、イタリア大使館や外務省が後援している展覧会です。過去に日本で開催された展覧会の中で最大規模のカラヴァッジョ作品が揃っており、とても充実した内容でした。

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大好評だったカラヴァッジョ展。巡回はある?

入場者数30万人を突破し、大好評の中幕を閉じたカラヴァッジョ展。

今回の展覧会に来られなかった方や地方にお住いの方にとって気になるのが、巡回を行うかどうかですよね。

残念ながら今回、カラヴァッジョ展の巡回はありません。次回、カラヴァッジョ作品が日本で観られる時は、このブログでもお知らしようと思っています。また、以下の記事では『法悦のマグダラのマリア』をはじめ、今回の展覧会で印象に残ったカラヴァッジョ作品を写真とともに紹介しています。展覧会に行けなかった方は少しでもその雰囲気を味わっていただけらばと思います。

▼カラヴァッジョの大型画集。『カラヴァッジョ―聖性とヴィジョン』で第27回サントリー学芸賞を受賞した宮下規久朗教授の解説付きです。カラヴァッジョ作品を手元に置いておきたい人は是非。

カラヴァッジョ展の感想

予想以上に充実した内容

今回の展覧会では、カラヴァッジョの作品とカラヴァッジョに影響を受け、彼の画法を模倣したカラヴァジェスキと呼ばれる人々の作品合わせて50点が展示されています。カラヴァッジョ本人の作品数は11点。出品数は日本で過去最多、世界でも有数の規模とのことです。カラヴァッジョが生涯で制作した作品の中で現存しているのは60点強と言われていて、中には動かせないものもあることから、11点というのが相当な数であることが分かります。

作品紹介:「法悦のマグダラのマリア」は世界初公開!

展示会場に入る前のスペースでカラヴァッジョの生涯についてまとめたVTRが流れています。ナレーションを北村一輝さんが務めています(音声ガイドも北村一輝さんです)。この映像を見てから作品を観賞するのもいいですが、結構人が集まっているので最後でもいいと思います。

caravaggio04 展示会場マップ(会場案内より)

作品は風俗画や静物、肖像、光など、全部で7つのテーマごとに構成されています。以下、各テーマのうち印象に残った作品を紹介します。

1.風俗画:占い、酒場、音楽(Genre Painting:Fortune-telling,Taverns,and Music)

caravaggio05<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『女占い師(1597年)』>

刀剣を腰に差した若者が女占い師に右手を差し出して未来を占ってもらっている様子を描いています。カラヴァッジョは自然主義に基づいた技法で現実生活の一場面を描いた作品を多く残していますが、当時は宗教画が全盛の時代。彼の作品には熱狂的な支持者がいる一方で、こういった作風を全く認めない人々も多くいたようです。

2.風俗画:五感(Genre Painting:The Five Senses)

caravaggio06<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『トカゲに噛まれる少年(1596-97年頃)』>

当時、トカゲに噛まれる少年のモチーフが流行っていたそうです。笑った顔よりも泣いた顔の方が描くのが難しいと言われていて、カラヴァッジョも果敢にこのモチーフに挑戦したようです。

3.静物(Still Life)

caravaggio07<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『果物籠を持つ少年(1593-94年頃)』>

本展覧会のポスターにもなっているこの作品はぜひ目の前でじっくりと見て欲しいです。よく見ると、少年と籠の中の果物の描き方が異なるのが分かります。果物が色鮮やかにはっきりと描かれているのに対して、少年はどこかぼんやりとした印象です。果物の描写は写真と見間違えるほどに精細です。

カラヴァジェスキの作品の中では、ハートフォードの静物の画家『戸外に置かれた果物と野菜』がとても印象的でした。戸外に色々な野菜が無造作に転がっているんですが(宙に浮かんでいるようなものも)、なぜかトカゲやカタツムリも這っていたりしてシュールレアリスムの絵のようでした。展覧会の中でも異彩を放ってたこの作品の作者は名前が分かっていないようです。無名の画家の中にも面白い作品を描く人がいたんですね。

4.肖像(Portraiture)

caravaggio08<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『マッフェオ・バルベリーニの肖像(1596年頃)』>

後のローマ教皇ウルバヌス8世の若かりし頃(30歳)の肖像画です。同じコーナーに展示されているジャン・ロレンツォ・ベルニーニの『教皇ウルバヌス8世の肖像』と比べてみると面白いです。

5.光(Light)

caravaggio09<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『エマオの晩餐(1606年)』>

カラヴァッジョは光と影のコントラストを用いた技法によってバロック絵画の形成に大きく寄与しただけでなく、後のドラクロワやクールベ、マネらの作品にまでその影響が及ぶと言われています。弟子たちが復活したイエスと知らずに客人として迎えた様子を描いたこの『エマオの晩餐』では、一つの光源から光に照射された人々の姿が立体的に描かれています。闇の中に浮かぶ、うつむき加減のイエスの表情にはっとさせられます。

この作品はミラノのブレア絵画館所蔵のものですが、実はこれと全く同じモチーフで5年前の1601年に描かれた作品がロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています(※今回の展覧会には展示されていません)。

caravaggio10<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『エマオの晩餐(1601年)』本展覧会では未出品>

光と影の描き方の違いが一目瞭然です。ミラノの方が静かで内省的な印象を与えます。また、ロンドンの方は人物たちの仕草が大きく描かれているのに対して、ミラノはさりげない仕草でより実在感があります。一見、違う画家の作品ではないかと思うほどに印象が異なりますが、僕は今回見た作品の静謐な雰囲気にとても感動しました。この作品は新約聖書のルカによる福音書(24章13〜35節)に出てくるエピソードが元になっています。

イエスは復活後にエマオに途中の道で、クレオパに近づいて、彼らと語りながら歩いた。そして、食事の招待を受けて、感謝してパンを裂いた時にそれが、イエスだと分かったが、その時イエスは見えなくなった。

wikipediaより)

この直後にイエスが消えてしまうことを想像しながら見るとより作品の中に引き込まれます。

6.斬首(Decapitation)

caravaggio11<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『メドゥーサ(1597-98年頃)』>画像はBLOUIN ARTINFOより

斬首のコーナーでは盾に描かれたメドゥーサの絵に人が群がっていました。個人蔵であるこの作品、実はカラヴァッジョ本人の作品かどうかはっきりと分かっていなかったのですが、専門家の調査により真作であると認められたそうです。フィレンツェのウフィツィ美術館にあるものよりも1、2年前に描かれたと考えられています。

この他にも『ゴリアテの首を持つダヴィデ』や『アレクサンドリアの聖カタリナの頭部』など、斬首のオンパレードでこのコーナーはなかなか異様な雰囲気でした。

7.聖母と聖人の新たな図像(New Iconography for the Virgin and Saints)

caravaggio12<ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ『法悦のマグダラのマリア(1606年)』>

長く行方不明とされていて、2014年に発見された本作『法悦のマグダラのマリア(1606年)』は、展覧会最大の目玉です。世界初公開となるこの作品は、カルヴァッジョがイタリアのポルト・エルコレで亡くなる際の荷物に含まれていた3点の作品の内の一つと言われています。画面右下のドクロはマグダラのマリアのアトリビュート(attribute)で、これによってこの人物がマグダラのマリアであると識別できます。

実は2001年に東京都庭園美術館で開かれた展覧会『カラヴァッジョ 光と影の巨匠―バロック絵画の先駆者たち』において、同じ構図のマグダラのマリアの絵が出品されていました。これは『マッダレーナ・クライン』(クラインは所有者の名前)と呼ばれる別作品で、数あるコピー作品の中で最も出来が良いことからこちらを原画と主張する人もいるとのこと。

2014年にカラヴァッジョ研究の世界的権威であるミーナ・グレゴーリ氏が今回出品された作品を真筆であると認定したそうです。以下、展覧会のWebサイトに掲載されているミーナ・グレゴーリ氏の解説を引用します。

今回初めて公開されるこの作品は、そこに認められる数々の様式的特質からカラヴァッジョの真筆であることが明らかです。例えば、マグダラのマリアの強烈な表情、彼女のバラ色の肌を作り出すオークルからピンクにかけての淡い繊細な色調、そして肩から胸にかけて広がる金色の長髪。また、力強い手首と青白い手は、色彩と光の見事な変化と指の半分にかかる陰影によってあらわされ、本作のもっとも印象的かつ濃密な部分となっています。彼女の衣服についても、マントの赤がカラヴァッジョが生涯用い続けた色であることと、白いシャツを形作る長く力強いひだは特筆に値します。マグダラのマリアの胸の左部分に落ちる強い陰影の生む明瞭なコントラストも注目に値します。これらの特徴によって、本作の質の高さが証明されるでしょう。本作がカラヴァッジョの真筆であることを確信します。

カラヴァッジョ展-公式ホームページより)

▼宮下規久朗教授が執筆した「カラヴァッジョ本」。作品のテーマや鑑賞ポイントからカラヴァッジョの人柄まで詳しく解説されています。カラヴァッジョの人生、人間性に興味のある方にはおすすめです。

カラヴァッジョの人となりを伝える資料

caravaggio13ローマ国立古文書館-Archivio di Stato di Roma(画像はwikipediaより)

喧嘩、殺人、脱獄など、はちゃめちゃな人生を送ったカラヴァッジョですが、本展覧会では、彼の人となりを現代に伝えてくれる貴重な資料も展示されています。

刀剣の不法所持で捕まった際の記録や、食堂でウェイターに殴り掛かった際の証言(食堂でのアーティチョーク事件)など、カラヴァッジョの粗暴な性格がリアルに伝わってきます。面白かったのは、彼が交わしたアパートを借りる際の契約書。大きな作品の制作のために部屋の壁(天井?)をぶち抜きたいと言うカラヴァッジョに対して「退去時に元通りにするならオッケー」と大家が了承したという内容です。今でいう賃貸物件の原状回復のようなことが当時すでに行われていたとは驚きです。果たしてカラヴァッジョが退去時に元通りにしたのかどうかも気になるところ。

▼『地獄の黙示録』『レッズ』『ラストエンペラー』で3度、アカデミー賞に輝いたヴィットリオ・ストラーロが撮影監督を務めた作品。先日放送されたNHKの番組でも作品の映像が流れました。特典映像付きで200分というボリュームです。

混雑状況は?※会期終了しました

caravaggio03ル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館。

※会期は終了しましたが、今後の参考までに一応記事は残しておきます。

気になる混雑具合について。僕が行ったのは3月末の平日のお昼過ぎ、ちょうど学校が春休みシーズンだし、桜が咲き始めていたので花見がてら美術館を訪れる人も多いのかなぁとかなりの混雑を覚悟していたのですが、幸いなことにそれほど混んでいませんでした。かといってスカスカというわけではなく、カラヴァッジョ本人の作品の前には常時10人前後、人気作品だと20人ほどの人が鑑賞していました。数分待てばある程度人がはけるので作品を目の前でじっくり観ることも可能です。

他の方のTwitter等を見る限り、土日祝日なども物凄く混雑しているというわけではないようです。カラヴァッジョという画家の日本における知名度や同時期に江戸東京博物館でレオナルド・ダヴィンチ展がやっているのでそちらに人が流れたということもあるかもしれません(※レオナルド・ダヴィンチ展は終了しました)。

ただ、カラヴァッジョを特集したテレビ放送もあるので、その直後は混雑が予想されます。放送予定は以下の通りです。

放送は終了しました。

・【BS日テレ】「カラヴァッジョ展」~絵画を変えた天才の光と影~ 4月8日(金)20:00~20:54

・【NHK総合】カラヴァッジョ 光と闇のエクスタシー ~ヤマザキマリと北村一輝のイタリア~ 4月8日(金)22:00~22:48 4月9日(土)10:05~10:53(再放送)

・【Eテレ】日曜美術館「カラヴァッジョ」4月17日(日)9:00~9:45 4月24日(日)20:00~20:45(再放送)

【追記】上記のテレビ放送は終了しました。テレビ放送直後はだいぶ混雑していたようですが、現在(5月12日)はかなり緩和されてきているようです。同時期に同じ上野公園内にある東京都美術館で開催中の生誕300年記念 若冲展の混雑がとんでもない状況のようですね。200分待ちなんていうTweetも見かけます。若冲展を見に来たけど混み過ぎてて断念した方、是非カラヴァッジョ展を見て帰ってください!

展覧会会場の国立西洋美術館についても記事を書いたので、こちらもどうぞ▼

開催期間・アクセス・料金 ※会期終了しました

以下、開催期間やアクセス、料金(中学生以下は無料!)についてまとめておきます。

・開催期間:2016年3月1日(火)~6月12日(日)

・会場:国立西洋美術館(東京・上野公園)〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7(JR上野駅の公園口から徒歩1分)

・開館時間:午前9時30分~午後5時30分 毎週金曜日:午前9時30分~午後8時(※)入館は閉館の30分前まで

・休館日:月曜日

・チケット:一般1600円 大学生1400円 高校生800円 中学生以下は無料

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まとめ:本場ローマにも行ってみたい!

約2時間かけて観て回った今回の展覧会ですが、物凄く濃密な時間となりました。上で少し触れたNHKの特集番組もばっちり録画予約してあります(見ました!)。

会場には、カラヴァッジョゆかりの場所を解説したローマの地図も展示されていて、彼が生きた時代の空気を感じることができます。一度ローマには旅行で行ったことがあるのですが、カラヴァッジョの「聖マタイの召命」があるサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会など、今回見ることのできなかった大規模な作品を見るためにまた訪れたくなりました。しばらくはカラヴァッジョに心奪われる日々が続きそうです。

− 展覧会関連の記事 −

▼ティツィアーノとヴェネツィア派展のレビュー。

▼2016年に開催されたルノワール展の感想。

▼世界文化遺産に認定された国立西洋美術館の魅力について。

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