ポンピドゥーセンター傑作展の感想と作品紹介|セラフィーヌ・ルイに衝撃

上野の東京都美術館で開催されたポンピドゥーセンター・傑作展(会期:2016年6月11日~9月22日)に行ってきました。パリにあるポンピドゥー・センター所蔵の20世美術の傑作が勢ぞろいした展覧会です。

ピカソやマティス、デュシャン、藤田嗣治、クリスト等々の著名な画家、美術家だけでなく、日本ではそれほど有名ではないけれども非常に個性的なアーティストの作品が展示されていました。

会期は終了しており残念ながら巡回もないようですが、以下、写真付きで作品を紹介しているので、今回行けなかったという方は少しでも展覧会の雰囲気を味わっていただければと思います。

ポンピドゥー・センターとは?

ポンピドゥー・センターは1977年に開館したフランス・パリ4区にある総合文化施設で、施設内に国立近代美術館、産業創造センター、公共図書館が入っています。日本では一般的にポンピドゥー・センターというと国立近代美術館(Musée National d’Art Moderne)を指します。

僕は2012年に妻と行ったフランス旅行でポンピドゥー・センターを訪れていますが、彩色を施された配管やエスカレーターが剥き出しになっている外観が強烈に印象に残っています。建物それ事態が現代アートといった感じです。

▼ポンピドゥー・センター(2012年撮影)
pompidou_centre

設計したのはコンペを勝ち抜いた建築家、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャース。パリの街中に突然現れるこの奇抜な建築物は当初、景観を損ねるという反対意見もあったそうですが、実際に行って見ると意外と街並みにマッチしていて不思議です。周辺にはカフェがあったり、パリの普通の町といった雰囲気。隣接する広場には巨大なダリの顔が描かれた落書きがあったりします。

▼巨大なダリの顔。完成度の高さからてっきり公式なアートだと思っていました。
pompidou_graffiti

ちなみにポンピドゥー・センターの名前は、第19代フランス大統領(第五共和政)のジョルジュ・ポンピドゥーに由来します。現代芸術の擁護者であるとともに、当施設の建造を発案した人物です。

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ポンピドゥーセンター傑作展のみどころ

1年1作家1作品|フランスを舞台に現代美術を一望する

今回の展覧会では、1906年から1977年までのタイムラインに沿って、1年1作家1作品、全71点の展示がされています。1977年はポンピドゥーセンターが開設した年。ポンピドゥーセンターが誕生するまでのフランスにおける現代美術の変遷を時系列に沿って一望することができます。

一人の作家や一つの芸術運動に焦点を当てた展覧会というのは多くありますが、このように様々なアーティストを思想、主義、運動と切り離し、時系列で並べて展示するというのはとても珍しい展示方法だと思います。

シャガール、ピカソ、マティス、デュシャンら著名な画家、美術家と並んで日本では無名なアーティストの絵画、彫刻、写真、映像作品が展示されています。

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会場構成は田根剛ら気鋭の建築家集団DGT

展覧会の会場構成は、建築家集団のDGT(DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS)が手掛けています。メンバーの田根剛は、パリを拠点に活躍する若手建築家。Jリーグのジェフユナイテッド市原のユースチームでプレイしていたこともある異色の経歴の持ち主で、新国立競技場のコンペでは最終選考にまで残りました。2016年3月にはTBSの情熱大陸にも出演し、エストニアのナショナルミュージアムの建設に奮闘する姿が放映されました。

pompi_dgt©Alexandre Isard 出典:ポンピドゥーセンター傑作展WEBサイト

「作品をアーティスト本人が語る展示構成にしました。
時代を追いかけながら、アーティストと作品、作品と言葉、言葉とアーティストに注目して下さい。
これまでに見たことのない斬新な展示を試みました。
偉大なる傑作への敬意ある挑戦です。」(田根剛)
出典:ポンピドゥーセンター傑作展WEBサイト

個人的には1960年以降の作品が展示されている2Fの展示スペースの作りが面白いと思いました。それまでは横にずれながら直線的に鑑賞していく流れだったのに対して、2Fは広々とした空間に作品が円形に展示され、弧を描くように鑑賞していく動きになります。エスカレーターを上がって2Fにたどり着いた瞬間に視界が開けるのも、ポンピドゥー・センター開設という華やかなゴールに向かって気分を高揚させる効果があると思います。

印象に残った作品を紹介

マルク・シャガール『ワイングラスを掲げる二人の肖像』【1917】

pompidou_chagall(© Bertrand Prévost – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

ベラ・ローゼンフェルドとの結婚後、幸せの絶頂にあったシャガールの作品。女性のモデルは妻。肩車されて「うぇーい」とやっているのがシャガール本人。一見酔っぱらいの悪ふざけのように見えるポーズですが、ユダヤの婚礼の儀式を象徴しているとのこと。頭上の天使は後に描き加えられたもので、愛娘のイーダがモデルともいわれています。

ル・コルビュジエ『静物』【1922】

pompidou_corbusier(© Georges Meguerditchian – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

国立西洋美術館の世界文化遺産の登録により日本でも注目度が増している建築家ル・コルビュジエ。彼は建築以外にも椅子の制作や絵画などで多彩な才能を発揮しました。

ロベール・ドローネー『エッフェル塔』【1926】

pompidou_eiffel_tower(© domaine public)

ワシリー・カンディンスキーらとともに抽象絵画の先駆者の一人としても知られるロベール・ドローネーの作品。1889年のパリ万博のために建造されたエッフェル塔はドローネーのインスピレーションの源であり続けました。抽象画を多く残したドローネーの作品群の中でこの作品は具象的な画風となっています。一見すると東京タワーにも見えますね。ちなみに東京タワーはエッフェル塔をモデルに設計されました。

レオナール・フジタ(藤田嗣治)『画家の肖像』【1928】

pompidou_foujita(© Jacqueline Hyde – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

エコール・ド・パリの代表的な画家、藤田嗣治の自画像。第二次大戦中は戦争画を描き、戦争協力者として批判された藤田は1955年にフランス国籍を取得。1959年にカトリックの洗礼を受け、レオナール・フジタとなりました。両耳にイヤリング、パッツン前髪、昨今流行中の丸メガネと奇抜な風貌が印象的。猫好きとしても有名です。

セラフィーヌ・ルイ『楽園の樹』【1929】

pompidou_seraphine_louis(© Jacqueline Hyde – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

圧倒的な色彩と神秘的で躍動感のある植物の姿に度肝を抜かれた作品。作者はセラフィーヌ・ルイ。1912年、修道院で生活していた彼女は絵を描くようにという神のお告げを受け絵画を始めます。絵画の手ほどきを誰からも受けず、独学によって自らの画風を確立しました。僕は最初に見たとき同じく独学の画家アンリ・ルソーを連想しましたが、彼をはじめとする素朴派の画家を見出したドイツ人の美術収集家・画商のヴィルヘルム・ウーデが彼女の才能に目をつけ、人々に知られることとなったそうです。

※セラフィーヌ・ルイについて、2016年9月9日、朝日新聞の天声人語でも紹介されました。

パブロ・ピカソ『ミューズ』【1935】

pompidou_picasso_muse(© Service de la documentation photographique du MNAM – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

今回が初来日となるピカソの代表作の一つ。二人の女性が描かれています。テーブルに突っ伏して寝ている女性は愛人のマリー=テレーズと言われています。この時期はピカソにとって私生活が大変な時期で、マリー=テレーズの妊娠がきっかけで妻のオルガと別居することになりました。新古典主義の時代を脱して、シュルレアリスムに傾倒した頃の作品です。

パブロ・ガルガーリョ『預言者』【1936】

pompidou_gargallo(© Philippe Migeat – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

スペイン出身の彫刻家、パブロ・ガルガーリョのブロンズの彫刻作品。ピカソやキュビスムの画家とも交流のあったガルガーリョはその影響を強く受けています。異様な姿をしたこの作品は『預言者』というタイトルとも相まって威厳漂う雰囲気を醸していました。238 x 65 x 43 cmとサイズもかなり大きく迫力があります。

フルリ=ジョゼフ・クレパン『寺院』【1941】

pompi_crepin(credit:Galerie St.Etienne)

今回の展覧会で個人的に最も衝撃を受けた作品です。左右対称で幾何学的な形をした寺院の上に亡霊のような人の顔が漂っています。画面最上部にはボス(神)らしき存在の顔も。一つ一つの顔をよく見るとぽかんと口を開けたりしていて非常に間抜けです。何をどうしたらこのような構図の絵を思いつくのか不思議ですが、作者のフルリ=ジョゼフ・クレパンのことを知るとこの画風もなんだか納得がいきます。

アウトサイダー・アーティストにもカテゴライズされるクレパンは、63歳のときに初めて一枚の絵を完成させました。そのとき「300枚の絵を描きなさい。そうすれば第二次世界大戦を終わらせることができるだろう」という聖なる声を聞きます。このお告げに忠実に従ったクレパンが300枚目の絵を描き終えた日は(本人曰く)1945年5月7日、ナチスドイツが降伏した日です。その後、「さらに45枚の絵を描いたら永遠の平和が保証される」という声を聞き、クレパンはせっせと絵を描き続けます。しかし45枚を描き切ることなく1948年に彼はなくなります。43枚を描き終えていて、あと残り2枚というところで力尽きました。クレパンが45枚全てを完成させていたら、世界平和はすでに達成されていたかも(?)しれません。

【1945】

1906年からポンピドゥーセンター開設の1977年まで、時系列で作品が展示されている今回の展覧会ですが、1945年は作品が展示されておらず、エディット・ピアフの『La Vie En Rose(バラ色の人生)』が流れています。美術界のみならず人類全体にとって大きな意味を持つ1945年。失われた多くの命を鎮魂するようにピアフの歌声が響いていました。

アンリ・マティス『大きな赤い室内』【1948】

pompidou_matisse(© Bertrand Prévost – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

フォーヴィスム(野獣派)として知られるアンリ・マティスの代表作の一つ。鮮やかな色彩、躍動感のあるタッチといったフォーヴィスムの特徴が垣間見えます。画面全体に広がるマティスが好んだ赤を背景にして、左右に異なる絵画、テーブル、植物を対置し、中心には黒い椅子が配置されています。マティスが描いた油彩作品の中で最も後期に位置する作品です。

ジャン・オリヴィエ・ユクリュー『墓地6番』【1974】

pompidou_cemetery_no6(© Jacqueline Hyde – Centre Pompidou, MNAM-CCI /Dist. RMN-GP)

一目見ただけでは写真と見間違うような写実性を持った作品。実際に撮影された写真をモチーフにしていますが、信じがたいほどの精密さで描かれた油彩画です。200 x 300 cmとかなりの大きさがあるので、目の前でまじまじと見つめてやっと写真でないことが分かります。ユクリューは無名の人々や作家、芸術家の肖像画も多く描いており、その中にはサミュエル・ベケットやウォーホール、ジャコメッディ、デュシャンなども含まれているとのこと。晩年の彼の姿を追ったドキュメンタリー映画もあるようです。

この他にもジャコメッティのブロンズの彫刻『ヴェネツィア女V』や、クリストの『パッケージ』など見応えのある作品が揃っています。クリストは建物やモニュメントを丸ごと包んでしまうという面白い芸術家です。

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混雑状況は?※会期は終了しました

pompidou_tobikan▲東京都美術館

※会期は終了しましたが、参考までに残しています。

当展覧会の会場は上野の東京都美術館。僕は7月の上旬、天気の良い土曜日の正午頃に行きました。土曜日ということでそれなりの混雑を覚悟して行ったのですが、それほど混んでおらず、というかどちらかというと空いているレベルでした。ピカソやマティス、シャガールの作品の前にはそこそこ人だかりができていましたが、数分待てば目の前で見られます。

休日の混雑がこの程度ということは、平日はさらに空いていると思います。Twitterなどの情報を見る限り、今のところ混雑しているという情報はなさそうです。

2016年8月3日、ポンピドゥーセンター傑作展の来場者数が10万人を突破しました。これを記念して、8月9日(火)以降の毎週火曜日、先着71名(展示作品数にちなんで)にオリジナルポストカード1枚がプレゼントされます。 ※終了しました。
日時:2016年8月9日、16日、23日、30日、9月6日、13日、20日
場所:東京都美術館 企画展示室入口
プレゼント内容:オリジナルポストカード(1人につき1枚。絵柄は選べません)
※ポストカードが無くなり次第、終了となります。
ポンピドゥーセンター傑作展

まとめ:アンソロジーのような展覧会

pompidou_lisa

今回のポンピドゥーセンター傑作展は、様々なアーティストが参加しているオムニバスCDや複数の作家の作品を集めたアンソロジーのような印象を受けました。今回初めて知ったアーティストもたくさんおり、より自分の美術鑑賞の興味関心が広がっていくのを感じています。

個人的に印象に残っているのは、セラフィーヌ・ルイとフルリ=ジョゼフ・クレパンです。ともに芸術の訓練を全く受けずに神の啓示によって絵画の道に入った二人です。アートの文脈から全く外れたところに現れた突然変異といった感じで、理知的に自らの創作スタイルを探求する他のアーティストの中で異彩を放っていました。この二人の作品に出会えただけでも行って良かった思えるくらいに感動しました。

ちなみにポンピドゥーセンターはフランスの人気絵本『リサとガスパール』(うちの2歳の娘もドはまり中)のリサたち家族が住んでいるという設定になっています。今回の展覧会を記念して記念グッズなども販売しているようです。

リサとガスパール 公式サイト
http://www.lisagas.jp/index.html

― 展覧会レビュー関連の記事 ―

※会期が終わっているものもありますが、写真付きで作品を紹介しているので見てみてください。

▼ダリ展(東京)に行ってきました。

▼宇宙と芸術展。チームラボの新作インスタレーションが体験できます。

▼60万人を集めたルノワール展のレビュー。

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