保育園の防犯訓練で5歳が号泣した話

防犯訓練で5歳が号泣した話

防犯訓練で侵入者を本物だと思い込んでしまった5歳

先日行われた保育園の防犯訓練でズー(5歳娘)が号泣したらしい。もう年長さんだし、訓練と分かっているはずなのになぜ泣いてしまうのだろうと思ったのだが、本人や先生たちから聞いた話を総合すると、どうやら侵入者が本物だと思い込んでしまったようなのだ。

防犯訓練の大まかな流れは、こんな感じ↓

  1. 不審者が園内に侵入
  2. 園児たちが避難
  3. 先生たちが刺股で撃退

侵入者役は幼児クラスの主任をしているA先生。しっかり変装し侵入者役を見事に演じきったのだろう、うちの子は見事に騙された。

園の方針?侵入者を本物だと信じ込ませるのはどうなの?

私が驚いたのと同時にモヤモヤを感じたのは、その後、侵入者役がA先生であることを園児たちに内緒にしていたということ。

一般的な保育園・幼稚園の防犯訓練がどのような内容なのか分からないので、他の園に比べてうちの子の保育園のここがおかしいというようなことは言えないが、防犯訓練で侵入者や不審者が誰であるかを明かさないというのは、つまり子どもたちに本当に侵入者・不審者が園にやってきたと思い込ませることになるのではないか。それって訓練になっているのか?と疑問に思う。

現にズーは本当に保育園に怖い人が入ってきたと思い込んでいた。

訓練の翌日になっても「またこわい人が入ってくる」と怯えていたズーを見兼ねてある保育士さんが「ズーちゃん、大丈夫だよ。あの怖い人は本当はA先生だったんだよ」と真実を告げてくれた。すると、その保育士さんは幼児クラス主任のA先生(訓練で侵入者役を演じた本人)に呼び出され、「それは言っちゃだめでしょ」と叱られたそうだ(この話は叱られた保育士さん当人からお迎え時に聞いた)。

そこまでして侵入者を本物だと信じ込ませることになんの意味があるのだろうか。園としては「あれは〇〇先生がやってるから怖くない」と、園児が気を緩めてしまうことを懸念したのかもしれない。緊張感を持たせ、訓練が実のあるものとなるようリアルさを追求しているのだと思う。

しかし、犯罪をリアルに再現するということは、つまり実際に被害を受けた子と同じような経験を子どもたちに敢えてさせることになるのではないか。

訓練と現実の境目

たとえば、見知らぬ人間が園に侵入して子どもたちに危害を加えようとした事件が実際に起こったとする。その場にいた園児は大きな精神的なショックを受けるだろうし、中にはPTSDを発症する子がいてもおかしくない。

このような経験を子どもに積極的にさせようと考える保育者や保護者は、まずいないだろう。一度怖い目にあえば、次同じようなことがっても上手く立ち回れるようになるなんて保証はどこにもないわけだし。。

侵入者を本物だと信じ込ませようとする保育園の姿勢は、(結果的に)園児にとってトラウマになるかもしれない体験を敢えてさせようとしているようにしか思えてならず、とてもモヤる。

現実と訓練を混同しやすい子もいる

今回の防犯訓練は、多くの園児にとっては訓練と認識できるものだった可能性もある。

ただ、皆が皆、現実と訓練の区別をしっかりとできるわけではない。不安や恐怖を強く感じやすい子だっている。うちのズーはそういうタイプだ。

節分で鬼が出てくると毎年必ず号泣し、先生に助けを求めて背中の後ろに隠れているような子だ(ちょうどその瞬間を撮影した写真が園内に貼り出されていた)。

私も妻も「鬼は偽物だよ。本当は先生がやってるんだよ」と節分行事が行われる日の朝、保育園に行きたがらないズーに何度も伝えたのだが、それでも本番では号泣する。

私も最初の頃は戸惑った。ちょっと怖がりすぎなのでは?と思ったりもした。しかし、そういう子だっているのだ。それは大人がどうこうして変えられる気質でもないし、変えるべき気質でもないと思う。

何か不測の事態が起こった時、園児が先生たちの指示に従って行動することは大切だし、そうできるように訓練することも重要だろう。ただ、(それが一部の園児であったとしても)現実と訓練の区別がつかなくなるくらいのリアルさを追求する必要はないと思う。

「守られている」という感覚を養うこと

A先生は、ズーが入園当初からずっと働いている。今は幼児クラスの主任ということもあってズーの持っている気質についても理解しているはずだと思う。にもかかわらず、翌日になっても怖がっているズーを安心させるために侵入者の正体をバラした保育士さんを叱ったことには正直戸惑いを覚える。

訓練の翌日、妻がお迎えに行くとA先生から「お母さんすみません。〇〇先生がズーちゃんに防犯訓練の犯人役が私だって教えちゃったみたいで」と謝られたそうだ。

「犯人が本物だと思わせる必要はないと思いますよ。だからそんなこと謝らなくいいですよ」と妻は返した。A先生は思いもよらぬ反応だとも言いたげな少し驚いた表情だったとのこと。

A先生自身は緊張感を持った防犯訓練によって子どもたちを守ろうと意気込んでいたのだと思う(訓練の少し前にバスを待つ子どもたちが次々と刃物で襲われる事件があった)。子どもたちを守るために真剣に訓練に取り組もうとされている先生たちの気持ちはありがたいし、日々安全に気を配ってくれていることにも感謝している。

ただ、防犯の大切さを教えるときには、子どもたちに「守られている」「保護されている」という安心感も同時に与えてあげてほしい。この時期の子どもは、「自分たちは守られている」という感覚を養うことも大切だと私は思う。

(たとえ現実がそうだとしても)いつ誰が自分に危害を加えてくるかわからないという世界観を子どもに植え付けるよりも、「怖い目に遭う可能性はあるけど、君たちは守られているから大丈夫」と言ってあげることの方が、この時期の子どもに必要なことではないだろうか。

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