六本木ヒルズの森美術館で開催中の「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダヴィンチ、チームラボ」(2016年7月30日-2017年1月9日)に行ってきました。チベットの曼荼羅や江戸時代の天文学資料、宇宙を題材にした現代アート、今注目のチームラボの新作インスタレーションまで、存分に楽しめる展覧会でした。
目次
混雑状況|待ち時間なし
▲1986年、射ち上げから73秒後に空中分解したチャレンジャー号の模型。トム・サックス「ザ・クローラー」
まず混雑ですが、僕が行ったのは8月上旬の平日。夏休みということで会場の六本木ヒルズ周辺は子連れの人も多く見受けられましたが、宇宙と芸術展はかなり空いていました。チケットカウンターでは全く並ぶことなく待ち時間0分。同時期に同じ建物内で開催しているジブリの大博覧会目当てのお客さんに比べてかなり人は少なかったです。
お昼過ぎの12時半頃に行きましたが、おそらくどの時間帯もそれほど人は多くないと思います。土日はもう少し人が多くなりそうですが、混雑というほどのレベルにはならないでしょう。ただ、主催者の中にNHKが含まれているので、今後テレビ放送で特集されることがあれば、人出が増えることが予想されます。
会場が広々としている上、人も少ないので思う存分、自分のペースで回れます。一部の展示品についてはカメラ撮影OKなので、じっくり鑑賞しつつ気に入った作品があれば写真を撮るといったことが可能です。都内の美術館はどこも混雑しがちなので、この解放感は良かったです。
今回僕が鑑賞に費やした所要時間は約2時間。作品の説明書きをゆっくり読み、時折写真を撮りながらの鑑賞でした。
チームラボの新作インスタレーション≪追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく – Light in Space≫に関しては出入り自由なので2回観ました。
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宇宙と芸術展|内容&みどころ紹介
「宇宙と芸術展」の内容とみどころを個人的に気に入った作品を中心に紹介します。
SECTION 1|人は宇宙をどう見てきたか
「宇宙と芸術展」の最初のセクションは古来から人類が宇宙をどのように捉え、描いてきたのかを紹介する展示です。チベットの曼荼羅や竹取物語絵巻、レオナルド・ダ・ヴィンチの星に関する論考、江戸時代に作られた天体望遠鏡、ルネッサンスの天球儀など、宇宙に関する歴史的な資料が多く展示されています。
南北朝時代や室町時代に描かれた曼荼羅、密教における方位の神々である十二天像、チベット曼荼羅など、仏教的視点から見た宇宙像をうかがい知ることができます。日本最古の物語といわれる竹取物語絵巻(江戸時代前期)もこのセクションにて展示されています。
西洋においてはコペルニクスの地動説、ガリレオ・ガリレイの『星界の報告』を経て、宗教的な宇宙観から科学的な宇宙観へと変遷していきますが、その過程を紹介した展示もあります。このセクションで展示されているレオナルド・ダ・ヴィンチの天文学手帳『アトランティコ手稿 554v』は日本初公開となります。
▼特に印象に残ったのは地獄の描写が凄まじい『熊野観心十界曼荼羅』ぜひ足を止めて細部までじっくりと見てみてください。
≪熊野観心十界曼荼羅≫ 出典:東京国立博物館
▼鉄隕石を使用して作られた日本刀。当時の皇太子(のちの大正天皇)に献上されました。
岡吉国宗《流星刀》1898年
SECTION 2|宇宙という時空間
多元宇宙理論や超弦理論など、最新の物理学、天文学、宇宙科学の知見を取り入れた現代アート作品が展示されているエリアです。日本の美術家・森万里子の作品やビョーン・ダーレムの大型インスタレーション、北京生まれのアーティスト、ジア・アイリ(贾蔼力)の巨大な絵画まで、宇宙を題材にした多様な現代アートを楽しめます。
▼エキピロティック宇宙論から着想を得た美術家・森万里子の作品。
森万里子《Ekpyrotic String Ⅱ》2014
▼巨大なブラックホールがある銀河系、最新の多元宇宙のあり方を再解釈した、ビョーン・ダーレムの大型インスタレーション。
ビョーン・ダーレム《ブラックホール(M-領域)》2008年
▼ジア・アイリ(贾蔼力)の絵画作品。とにかく巨大で迫力があります。
SECTION 3|新しい生命観-宇宙人はいるのか?
セクション3では、これまで人々が想像してきた宇宙人像から、宇宙時代を迎えた未来の人類の進化した姿まで、SF雑誌や最新の遺伝子工学の研究とともに紹介しています。
空飛ぶ円盤(UFO)の江戸時代的表現ともいわれる『うつろ舟の蛮女』、荒俣宏のSF雑誌コレクション(荒俣宏の解説付き)、エアロスミスのアルバムジャケットにも起用されたイラストレーター空山基の《セクシーロボット》など、人類の思い描いてきた宇宙人像や新しい生命のあり方を巡る作品の数々が展示されています。
▼銀色に輝く美しい女性型ロボット。メタリックな表現が特徴的な空山基の作品です。360度回転しています。
空山基《セクシーロボット》2016年
▼江戸時代版UFO伝説ともいわれる『うつろ舟の蛮女』
万寿堂『小笠原越中守知行所着舟』(「漂流記集」より)江戸時代後期(19世紀)
▼遺伝子操作で改良された赤ちゃんのような芋虫のような姿の生命体。間近で見ると質感がとてもリアルです。
パトリシア・ピッチニーニ《ザ・ルーキー》2015年
▼荒俣宏のSF雑誌コレクション。本人の解説がとても面白く、読み応えがあります。雑誌発売当時の科学的根拠を基に想像された火星人や木星人など、太陽系の惑星に住む知的生命体の姿はグロテスクでありながらどこかユーモラスです。中には火星人が想像した地球人の姿など、奇抜な視点から描かれたイラストもあります。
SECTION 4|宇宙旅行と人間の未来
本格的に宇宙旅行の時代に突入しようとする人類と宇宙との関係を考察したアーティストの作品や、米ソの宇宙開発の歴史、JAXAのプロジェクトの紹介、火星のテラフォーミングを解説したNHK制作の映像、火星に滞在するための建造物の模型など、宇宙開発の最前線を紹介した作品が並びます。
また、「宇宙と芸術展」最大の目玉とも言えるチームラボの作品≪追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく – Light in Space≫もこのセクションにて展示されています。
▼アポロ11号と管制センターの月面着陸時の交信記録。ニール・アームストロング船長の有名な言葉「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」との言葉が記録されています。交信終了直後に記者団に配布されました。
▼建築家・デザイナーのネリ・オックスマンによる、デジタル製造技術とバイオテクノロジーの融合により生み出された衣服。ネリ・オックスマンはTEDの講演でも話題になりました。
ネリ・オックスマン《ズハル・土星を彷徨う人》
▼猪子寿之率いるチームラボの新作「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく – Light in Space」4分20秒のインタラクティブデジタルインスタレーション作品です。空間いっぱいに広がる映像の中を飛び回るカラスは日本神話に出てくる三本足の八咫烏(やたがらす)。神武天皇を大和の橿原(かしはら)まで案内した太陽の化身と言われています。自分の体を含む空間全体が浮遊しているような不思議な感覚を体感できます。この展示スペースは何度でも出入り可能で、映像もループします。
この他にも、古来の時間観測法である日時計をテーマにした現代アート作品、コンラッド・ショウクロス《タイムピース》や、太陽光の強度を表現した音の世界を体感できる3チャンネル・ビデオ・インスタレーション、セミコンダクター《ブリリアント・ノイズ》など、興味深い作品が揃っています。
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音声ガイドは篠原ともえ&猪子寿之
「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダヴィンチ、チームラボ」の音声ガイドを務めるのは、タレントの篠原ともえさん。学生時代に天文部に所属し宇宙好きとしても知られています。
▲篠原ともえ
チームラボの新作「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく – Light in Space」の音声ガイドは、チームラボの代表取締役、猪子寿之さん。作品の魅力や楽しみ方について解説しています。
▲猪子寿之
写真の出典:宇宙と芸術展より
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オリジナルグッズ
展示会場を出た先にある特設ミュージアムショップでは、「宇宙と芸術展」のオリジナルグッズを販売しています。
展示作品のセクシーロボットやザ・ルーキーがプリントされたTシャツから、ポストカード、宇宙食、江戸時代のUFO「うつろ舟」を模したどんぶりなど、ユニークなグッズが揃っています。
僕は太陽系の惑星が描かれた3Dの定規(税込432円)を購入しました。
写真の出典:宇宙と芸術展より
開催期間・料金・アクセス
【会期】
2016年7月30日(土)-2017年1月9日(月・祝日)
【入場料】
一般 1,600円
学生(高校・大学生) 1,100円
子供(4歳-中学生) 600円
※料金は税込
※展望台 東京シティビュー、屋上スカイデッキ、森アーツセンターギャラリーへは別途料金がかかります。
【アクセス】
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
【開館時間】
10:00-22:00(火曜日は17:00まで)
※「六本木アートナイト2016」開催に伴い、10月21日(金)は翌朝1:00まで、10月22日(土)は翌朝6:00まで
※入館は閉館の30分前まで
※会期中無休
宇宙と芸術展の感想|宇宙は永遠のフロンティア
南北朝時代の曼荼羅から江戸時代の天体望遠鏡、ダーウィンの『種の起源』の初版本、宇宙を題材にした現代アート、チームラボの新作インスタレーションまで、実に多彩なラインアップだった今回の展覧会ですが、宇宙というコンセプトはそれら全てを呑み込んでしまうくらいに巨大なものだと痛感させられました。一歩間違えればしっちゃかめっちゃかになりそうな展示内容であるにも関わらず、それらにある種の統一感のようなものを感じてしまうのは、宇宙が古来から人類の想像力の源泉であり続け、今もなおそれは変わらないからだと思います。
中世の宗教的な宇宙観から科学的な宇宙観への変化を経ても、宇宙の神秘は全く損なわれることなく、逆にその深淵さを増幅させています。多元宇宙論などの最先端の理論を知れば知るほど、僕は中世の曼荼羅以上にそれらが提示する宇宙観を荒唐無稽に感じてしまいます。宇宙の謎は深まるばかりです。。
地球上からフロンティアが失われつつある中、人類が宇宙に目を向けそこに飛び出そうとするのは必然なのかもしれません。
小さなお子さんを連れた方や抱っこ紐で赤ちゃんを抱いている方も見かけました。展示内容は少し難しいかもしれませんが、小学生くらいのお子さんなら十分に楽しめるのではないかと思います。特にチームラボの展示はお子さんも喜ぶと思います。
おすすめです。