子どもの車内放置は他人事ではない。事故を防ぐための具体的な対策は?

毎年夏になると車内放置された子どもが死亡するというニュースをよく目にします。先日も悲しいニュースがありました。

車に置き去り、2歳死亡 父親「保育園に送るの忘れた」-朝日新聞

このニュースで父親は、「子どもを車に乗せていることを忘れていた」という趣旨の話をしています。ニュースサイトやSNSのコメントを見る限り多くの人は、「子どもを乗せていることを忘れるなんてありえない」という反応を示していますが、果たしてそうでしょうか。

この記事ではまず、車内の温度変化とそれが人体に及ぼす影響について、JAF(日本自動車連盟)の調査を元に紹介します。次に、「短時間なら大丈夫」という理由で意図的に車内に子どもを放置する行為の危険性について考えます。そして最後に、「子どもの降ろし忘れ」を防止するための7つの具体策を紹介します。

子どもの命を奪う「車内放置」

炎天下での車内温度は50度を超える

JAF(日本自動車連盟)の調査によると、夏の炎天下にエアコンを停止した車内の温度は50度以上に達します(外の気温が35度)。サンシェードを装着したり窓を開けるなどの対策を施してもさほど効果はなく、車内温度は人や動物が耐えられないレベルにまで上昇してしまいます。

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短時間なら大丈夫?わずか15分で命の危険

短時間であれば、炎天下の車内に子どもを残しても大丈夫なのでしょうか。JAFはコンビニやスーパーなどの駐車場に停めた車内に子どもを残した状況を想定した実験も行っています。それによると、エアコンを停止してからわずか15分で熱中症指数が危険レベルにまで達しました。

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このような場所に赤ちゃんや小さな子どもを放置するとどのようなことになるのでしょうか。

乳幼児は体温調節機能が未発達で、高温下では短時間で体温が上昇し、死に至ることがある。寝ているからという理由で、車内に子どもを残すのは大変危険である。
出典:JAFユーザーテスト

死の危険が間近に迫っていても赤ちゃんや小さな子どもは自力で外に出ることができません。当然のことですが、このような状況に陥らないように我々大人が注意しなければなりません。

エアコンを付けたままでも車内放置は危険

たとえエアコンを付けたままでも子どもを置き去りにして車内を離れることは危険です。子どもが後部座席に座っている場合、炎天下の日差しがリアウィンドウから差し込み子どもの身体に直接当たることがあります。運転席、助手席が涼しくても後部座席が同様とは限りません。

またチャイルドシートは体を包み込むようにして子どもの身体に密着しているので汗をかきやすいです。子どもが気持ちよさそうにすやすやと眠っていても実は大量の汗をかいているかもしれません。適度に水分補給をしないと脱水症状、熱中症のリスクは高まります。

エアコンを付けるためにエンジンをかけたまま車を離れた場合、誤操作で車が動いたりする別の危険性もあります。燃料切れでエンジンが止まってしまえばエアコンも使えません。

「短時間だから」「眠っているのを起こしたくないから」といった理由で子どもを車内に残すのは、エアコンをつけているかどうかに関わらず危険だということです。

子どもを残して車を離れたことがある人は28.2%

子どもの車内放置には大きく分けて二つのパターンがあります。一つ目は何らかの理由で意図的に子どもを車内に残して車を離れるパターン。もう一つは、子どもが乗っていることを忘れてしまい意図せずして車内に置き去りにしてしまうパターンです。

まず、一つ目の意図的に子どもを車内に残すケースについて考えます。

leave-a-child-questionnaire出典:『子どもの車内事故に関するアンケート調査』結果

JAFが行ったアンケートによると、回答者7,048人のうちの28.2%の人が「子どもを車内に残したまま車を離れたことがある」と答えています。その理由をいくつか抜粋します。

  • 子どもが寝ていて数分で終わる用事だった。
  • 銀行・ATMなどへは子どもを残して行く事がある。
  • わざわざおろすとまたチャイルドシートをするのが面倒だった。
  • スーパーの買い物で、すぐ戻れる状態だったから、車のエンジンを切ってキーは抜き窓は少し開けて行った。
  • 小さい子どもが二人とも寝てしまい、抱っこして連れて出ることが出来なくなった。

出典:『子どもの車内事故に関するアンケート調査』結果

こうして見てみると理由は様々ですが、共通するのは保護者が短時間なら子どもを車内に残しても大丈夫だと考えているということです。しかし、先の調査結果などから分かるように短時間であっても車を離れることは危険を伴います。

現在進行形で子育てをしている人からすると、たとえば「小さい子どもが二人とも寝てしまい、抱っこして連れて出ることが出来なくなった」といった理由を読むと、同じ状況であれば自分も同じことをしてしまうだろうなと思うかもしれません。

私は車を運転しませんが、どうしても少しの間子どもを車内に残さざるを得ないシチュエーションがあるだろうことは想像できます。

ただ、子どもを車内に残したときに考えられる様々な危険を知識として持っていれば、事前にあらゆる可能性を検討して車内に子どもを残さなくても済むような対策をしておくことができるでしょう。

意図的な車内放置をなくすには?

発見者による通報の有効性

保護者一人一人が子どもの車内放置の危険性を認識し、車を降りるときは必ず子どもも一緒に連れていくのが当たり前の世の中になるのが理想だと思いますが、保護者個人の自覚を促すだけでは事故を完全に無くすことは不可能でしょう。それでは、個々人を啓蒙すること以外に事故を防止する方法はないのでしょうか。

おそらく最も有効だと思われるのが、発見者が通報もしくは救出するというものです。

車内放置のニュースでよく目にするのが、親がパチンコをしている間に車内に残された子どもが死亡するというものですが、この問題に対処するため、パチンコホールの全国組織である全日遊連(全日本遊技事業協同組合連合会)では様々な対策を講じています。その内の一つである「駐車場の巡回」によって未然に事故を防止した事例が数多く報告されており、事故防止の参考になると思うので報告書の中からいくつかを紹介します。※パチンコ店に子連れで行くことは禁止されています。

<2015年4月2日>
駐車場巡回の際、泣き声が聞こえたことから捜索したところ立体駐車場1階に停車している窓が少し開いた軽乗用車後部座席のチャイルドシートで泣いている乳児を発見。
直ちに店内へ連絡し店内放送した。また、乳児が大量の汗をかいていたことから窓の隙間から竿を用いて反対側のドアを開錠し、乳児を救出した。
その後、すぐに保護者が現れたことから、厳重に注意し退店させた。

<2015年7月28日>
駐車場巡回の際、子どもの泣き声が聞こえたため捜したところ、エンジン停止中で窓が少し開き施錠された乗用車車内ベビーシートで泣いている乳児を発見。異常は認められなかった。
直ちに店内へ連絡し、警察に通報するとともに店内放送と声かけを行ったものの保護者は見つからなかった。警察官到着後、乳児を保護し、付近の捜索を行ったところ、約30分後、最寄駅のカフェにいた保護者が発見され、警察官とともに戻ってきた。その後、警察官が身元確認と厳重注意を行った。

いずれも平成27年度 子ども事故未然防止事案報告より引用

ここで引用したもの以外にも多くの事例があるのですが、放置されている子どもを発見した人が保護者に知らせたり警察に通報することは、事故防止の観点から非常に有効だと思います。

車内放置された子どもの救出動画

車内に放置された子どもを発見した人が通報し、警察が救出する瞬間を捉えた動画があります。車内放置の危険性と発見者による通報の有効性を垣間見ることができます。

▼この動画は、アメリカのコストコで母親が買い物している最中、車内に置き去りにされた子どもを救出する映像です。映像の最後に買い物から戻ってきた母親が「ごめんなさい(I’m sorry.)」と言ったのに対して警察は「ごめんなさいじゃないでしょ。死ぬとこでしたよ!(No ‘sorry.’ She could have died!)」と叫びます。

▼次の動画は車内に放置された小さな赤ちゃんを警察が救出する生々しい映像です。警察のボディカメラによって撮影されています。父親はこの後逮捕されたそうです。

車内放置は児童虐待か

上で紹介した動画はアメリカで撮影されたものですが、アメリカでは(州によりますが)車内に子どもだけを残すこと自体が児童虐待となります。一般の人たちの児童虐待に対する意識も高いので、車内に限らず放置されている子どもを周囲の大人が見守る環境が日本以上に整っていると言えるでしょう。

日本では「児童虐待の防止等に関する法律」において、児童虐待の定義がなされています。それによると児童虐待とは、「保護者がその監護する児童(18歳に満たない者をいう)に対し、次に掲げる行為をすること」(第2条)「児童を長時間放置することや、保護者としての監護を著しく怠ること」(第3項)とされています。

解釈によっては、日本の法律でも車内に子どもを置き去りにすること自体を児童虐待とみなすことができるわけです。実際に全日遊連では、車内放置は「児童虐待」です!と来場者に警告しています。しかしながら日本において車内に子どもを放置した保護者が逮捕、起訴されたというケースはおそらくほとんどないものと思われます。

子どもを放置した時間の長さやその時の状況、子どもの被害の程度等、様々なケースが考えられるので判断が難しいとは思いますが、今後、日本においても子どもの車内放置を児童虐待とみなし保護者を逮捕すべきだという議論が本格化してくるかもしれません。

子どもの降ろし忘れ

誰もが当事者になりうる現実

冒頭で引用した宇都宮での車内熱中症の事故では、父親が保育園に送るために後部座席に乗せていた2歳の子どもを忘れてしまい、そのまま仕事に行ってしまったということでした。「子どもを乗せているのを忘れる」などというのは、にわかには信じがたいことですが、このようなことは決して他人事ではありません。誰しもに起こりうることです。

過去にも宇都宮の事故と全く同じようなケースが日本で起こっています。

車内放置死…医師、娘の存在忘れる

女児を放置したのは、同病院に内科医として勤務する41歳の男性で、警察の調べに対しては「出勤前に保育所に寄って長女を預けるつもりだったが、長女が静かだったことや、遅刻しそうだったことからその存在を忘れてしまった」と供述しているという。
出典:response.jp

車社会のアメリカでも、車内放置された子どもの死亡事故が後を絶たず、社会問題化しています。

ワシントンポストの記事によると、過去15年間で682人の子どもが車内熱中症で死亡しています。驚くべきことに、そのうち54%は保護者が子どもを車に乗せていることを忘れたことにより起こっています(その他、28%が子ども自ら内側から鍵をかけてしまったケース、17%が意図的に子どもを車内に閉じ込めたケース)。

では、このような「子どもを乗せていたことを忘れる保護者」とはどのような人たちなのでしょうか。上の調査を行った気象学者のJan Null氏によると、こうした事故を起こす人たちの属性は、父親、母親、祖父母、ベビーシッターなど様々です。職業も歯医者、裁判官、弁護士、ウェイター、消防士、エンジニア、会計士、教師、警察官、学生など多岐にわたります。

参照:Jan Null氏の調査資料

私たちは、子どもを乗せていることを忘れるなんてあり得ない、そんな人は責任感のない「おかしな人間」だと思いがちですが、アメリカで行われたものとはいえ、上の調査結果を見る限りこのような「取り返しのつかない過ち」は誰もが起こしうると言えるでしょう。

では、このような「子どもの降ろし忘れ」を防ぐにはどうしたら良いでしょうか。

子どもの降ろし忘れを防ぐ7つの具体策

車内放置された子どもの死亡事故が後を絶たないアメリカにKids and Carsという団体があります。車内放置の危険性を訴え、このような事故の再発を防ぐことを目的とした非営利団体です。この団体の設立者・代表であるJanette Fennell氏が「子どもを降ろし忘れない」ための具体策を提言しているのでいくつか紹介したいと思います。

1.ルーティンが変わったときは特別の注意を払う

日々のルーティンが変わると、意図せずして車の中に子どもを置き去りにしてしまうリスクが増大します。何らかの変化があった場合(いつもと違う人が運転する等)には、特別な注意を払いましょう。

2.車の後部座席に必需品を置いておく

財布や鞄、携帯電話、ノートPCなどの必需品を車の後部座席に置いておきます。こうしておけば車を降りる際に必ず後部座席を確認することになります。もし会社の建物に入る際に社員証やIDカードが必要な方は、それを置いておくのも良いかもしれません。

3.車に乗るときはぬいぐるみを一緒に

大き目のぬいぐるみを常に後部座席に座らせておきます。チャイルドシートを常設している場合は、そこに座らせます。赤ちゃんが後ろに座っているときは、ぬいぐるみを運転席ちかくの分かりやすい場所に移動させます。目に入るところにぬいぐるみがあることで、後部座席に子どもを乗せていることを思い出しやすくなるでしょう。

4.チャイルドシートを真ん中に設置する

チャイルドシートを運転席の真後ろではなく後部座席の中央に設置すれば、ルームミラーで子どもの様子が見やすくなります(シートベルトが2点式の場合など、形状によってチャイルドシートを後列中央に設置できないこともあります)。

5.保育園・幼稚園のスタッフと連絡体制を築いておく

登園時間を過ぎても保育園や幼稚園に子どもが登園してこない場合、園の職員から必ず携帯電話に連絡をもらうようにします。子どもを保育園に預けるのを忘れてそのまま仕事に行ってしまう、というケースは日本に限らずアメリカでも数多く起こっているようです。事前に園との連絡体制を築いておくことで、長時間の車内放置を防止することが可能です。宇都宮の死亡事故では、お迎えのとき(午後5時ごろ)に母親が子どもが登園していないことに気付きました。朝の段階で保育園から両親のどちらかに連絡があれば、亡くなった2歳の男の子の命は救えたかもしれません。

6.子どもを乗せる可能性がある人たちと車内放置の危険性について話し合う

車内放置の危険性について事前に話し合うことは事故の抑止につながるでしょう。話し合いの対象となる相手は、夫、妻、祖父母、ベビーシッター、友人など、子どもを車に乗せる可能性がある人たち全員です。子どもの降ろし忘れは誰にでも起こりえます。

7.車内放置されている子どもを見つけたら通報する

日本ではなかなか勇気のいることかもしれませんが、車内に置き去りにされている小さな子どもを発見した場合は通報しましょう。いきなり通報するのがためらわれる場合、そこがスーパーやショッピングモール等の駐車場であればお店の人に伝えて通報してもらうという方法でもよいかもしれません。ただ、一刻を争う状況であるということは頭に入れておきましょう(わずか15分で熱中症指数は危険レベルにまで達します)。

参照サイト:Parents.com / today.com / huffingtonpost.com

まとめ:車内放置の死亡事故は他人事じゃない

私はこれまでの30余年の人生で数々のミスを犯してきました。学校のテストで自分の名前を書き間違えたり(小学校ではなく大学で)、ドアノブに鍵をさしっぱなしの状態で一日過ごしたり、洗濯機をゴミ箱と間違えて鼻をかんだティッシュを何枚も放り捨てていたり・・枚挙にいとまがありません。

だからこそ私は(多少慎重すぎるほどに)様々なことに注意を払いながら子育てしているつもりです。ちょっとした不注意で子どもは命を落とすものですし、そのような不注意やミスを犯してしまう可能性が自分にも十分あることを知っているからです。私は自らの不注意で子どもを死なせてしまった人たちを他人とは思えません。

ちょっとの時間だから大丈夫だろうと油断したり、他のことに気を取られて子の存在を忘れてしまったり、といったことは大なり小なり誰にでもあることだと思います。

度々報道されるにもかかわらずなくならない車内放置による子どもの死亡事故ですが、そういったニュースに接するたびに「自分は絶対こんな間違いは犯さない」と親を非難するのではなく、「自分も起こす可能性はある」と考えることが、悲しい事故の当事者とならないための第一歩だと思います。