(『大地を受け継ぐ』予告編より)
先日、父親を自殺で失った福島の農家の方のインタビュー記事を読みました。
首つったおやじ、無駄死にさせたくねえ 福島の農家(朝日新聞デジタル)
福島で農業を営んでいる樽川和也さんのお父さんは、有機栽培に熱心で環境のことをよく考える人でした。地元の学校に呼ばれて食の教育で話をしたこともあり、安全でおいしいものを子どもたちに食べさせることに誇りを感じていたそうです。
「国から野菜の出荷停止の連絡が届いた翌朝、首をつりました。収穫前のキャベツ7500個がダメになった。畑も汚された。これから先、どうやって生きてくっぺ、と思い詰めたんでしょう」
お父さんの自殺の件に関しては、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)という機関の仲介によって和解が成立し、東京電力側も事故と自殺の因果関係を認めたそうです。賠償金も支払われましたが、東電からの直接の謝罪はなく、ファックスが届いただけ。
その他にも、賠償額の低さや除染の問題などについて語っています。
2011年3月11日の東日本大震災から5年が経ちますが、福島を始めとする被災地で生きる人々が元の暮らしに戻るには途方もない時間を必要とするでしょう。元の暮らしに戻ることを諦め、違う環境に身を移さざるをえなかった人もたくさんいます。
こういった記事を読むたびに、福島の実情について自分は知らないことだらけだということを改めて思い知らされます。
そんな福島の現実を垣間見せてくれるドキュメンタリー映画10本をまとめました。
目次
『大地を受け継ぐ』:井上淳一監督
原発事故の影響で作物出荷停止の措置を受け、命を絶った農家の男がいた。彼の息子は今もその土地を耕し、作物を作り続けている・・・。福島県須賀川市を訪れた東京の学生がその4年間の物語に心を揺さぶられる様を捉えたドキュメンタリー。監督は、「いきもののきろく」の井上淳一。
(引用元:Movie Walker)
2016年2月20日(土)に「ポレポレ東中野」他で公開。上で紹介した福島で農業を営まれている樽川和也さんが出演されています。
『天に栄える村』:原村政樹監督
福島第一原発事故による放射性物質汚染と闘う福島県天栄村の農家の人々の姿を追ったドキュメンタリー。環境に配慮したおいしい米作りを追求し全国コンクールで4年連続金賞受賞という成果を残している彼らが、事故で農地を汚染された絶望的な状況に屈することなく、行政に頼らず自分たちで試行錯誤しながら除染に取り組む様子を映し出す。監督は『里山の学校』などの原村政樹、ナレーションを女優の余貴美子が務める。
(引用元:シネマトゥデイYoutube公式ページ)
こちらも福島の農家の人々にスポットライトを当てたドキュメンタリー映画です。2013年に公開された作品ですが、現在も各地で上映会が行われています。公式ホームページには、俳優の西田敏行さん、余貴美子さん、作家の村上龍さんらの推薦メッセージ・感想が掲載されています。
『ナオトひとりっきり』:中村真夕監督
福島第一原発の事故による全町避難で無人地帯となった福島県富岡町で、取り残された生き物たちと一緒に暮らす男性をとらえたドキュメンタリー。事故発生時、原発から12キロに位置する富岡町で年老いた両親と暮らしていた55歳の松村直登さんは、原発に翻弄される暮らしに疑問を感じ、たったひとりで町に残ることを決意する。電気も水道もない町で孤独な毎日を送りはじめた彼は、やがて町に置き去りにされた犬や猫、牛、ダチョウといった動物たちの中に自分の居場所を見出していく。放射能汚染された町の中でのびのびと生きる松村さんと動物たちの姿を通し、本当の幸せとは何かを問いかける。監督は、「ハリヨの夏」「孤独なツバメたち デカセギの子どもに生まれて」の中村真夕。
(引用元:映画.com)
こちらは2015年の作品。原発事故により全町非難を余儀なくされた町に一人残り、置き去りにされた動物たちと共に生きる男性の姿を追ったドキュメンタリー映画です。公式サイトでは、音楽評論家のピーター・バラカンさん、映画監督の岩井俊二さん、内閣総理大臣夫人の安倍昭恵さんなど、多くの著名人のコメントを読むことができます。
詩人の谷川俊太郎さんのコメントを引用します。
尋常ではない出来事に、尋常に対処する男の日々、そこにはほのかな明るさがある。希望も多分そういうところにひそんでいる。
(谷川俊太郎、詩人)
▼現在、DVDが発売中です。
『みらいへの手紙』:福島県制作
こちらはドキュメンタリーアニメ作品。東日本大震災から5年が経とうとする現在の福島の現状を描いた10本のオムニバス作品で、福島県による制作です。ネット上に全編公開されています。
内容は福島県内で起きた実話がベースとのこと。アニメーション制作は、エヴァンゲリオンで知られるガイナックスが2015年1月に設立した福島ガイナックス。福島県出身のディーン・フジオカさんがストーリー・テラーを、同じく福島出身の松井愛莉さんがタイトルコールを務めています。
公式ホームページでは、制作ドキュメンタリーやディーン・フジオカさんのインタビュー映像なども見られます。
『A2-B-C』:イアン・トーマス・アッシュ監督
除染された我が家。除染された学校。その“今は安全”という場所以外でも生活する子どもたちの為に日々、放射線量を測る母親たち。その度に基準値を大きく上回る放射線量。子どもたちの甲状腺の検査結果を示すタイトルのこの映画は、除染方法、学校や病院や国の対応などの“おかしなこと”を捉え、“おかしなこと”にしっかりと怒る逞しい母親たちと子どもたちを記録している。
(引用元:ぴあフィルムフェスティバル公式ページより)
日本在住のアメリカ人監督による、原発事故後の子どもたちへの健康被害に焦点を当てた作品。2014年5月以降、日本で公開されました。賛否両論が巻き起こり、上映が急きょ中止になったこともありました。タイトルのA2-B-Cは、子どもたちの甲状腺検査において、しこりの大きさなどをあらわす記号のことです。
子どもの甲状腺がんと原発事故との因果関係については様々な意見があります。しかし、福島で生きる母親、父親、子どもたちが不安に苛まれ、悩み、葛藤している姿は紛れもない現実です。
自主上映会など、最新情報は『A2-B-C』公式ページで確認して下さい。
『福島へようこそ』:アラン・ドゥ・アルー監督
損傷した福島第一原発から20kmの南相馬市で、日本人家族とともに日常生活を過ごした1年。
除染活動の取組み、科学的不確実性、政府の不決断のあとで、私たちは誰を信用すべきだろうか?
とどまるべきか、離れるべきか?
それぞれの家族が自ら決断するよう迫られている。
子供たちがあとで思い出せるよう、監督は「出来事のあと」を語る。
しかし、脅威が原子力発電所の現状の上にのしかかる。
新たな地震や津波が起こったらすぐに逃げられるよう、家族のスーツケースとガソリン缶が用意されている。
(引用元:311ドキュメンタリーフィルム・アーカイブより)
2013年、ベルギー出身の監督によって制作されたドキュメンタリー作品。2013年3月11日にベルギーで公開されました。
インターネット上に全編公開されており、上のYuotubeのリンクから見ることができます。
『無知の知』:石田朝也監督
原子力は、未来永劫わたしたちの文明を照らす光だろうか? 東日本大震災と福島第一原発事故を経験したわたしたちはその神話を必ずしも信じることはもうできない。しかし発展した文明を手放すこともできずにいる・・・。2011年の大震災、そして原発事故以降、監督・石田朝也は「原発」に疑問を持った。
自分の目で確かめるため福島の人々や震災直後の混乱した官邸と福島第一原発の状況を知る当時の内閣関係者のインタビューを決行。そして「原発って何?」と原子力工学の第一人者に聞き、「新しいエネルギー」について太陽光発電関係者に尋ねる。
そこから見えてくるのは、それぞれの立場から描き出される日本の未来の設計図。そしてそれぞれの正義。
「何しにきた!」と怒られたり、「不勉強な」と呆れられたりするものの、歩みを止めない、怖いもの知らずの“無知な男”石田監督。その突撃インタビューの記録。
(引用元:『無知の知』公式ホームページより)
原発事故当時の総理大臣、菅直人をはじめ、村山富市、細川護煕、鳩山由紀夫などの歴代総理大臣、原発事故当時の官房長官である枝野幸男、さらには原子力工学の第一人者や太陽光発電の関係者等まで出演する原発ドキュメンタリー映画。
映画のタイトルである『無知の知』は古代ギリシャの哲学者ソクラテスの言葉からきています。
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『フタバから遠く離れて』:舩橋淳監督
2011年3月の東日本大震災で被害に遭い、福島第一原子力発電所のある故郷から町ごと移住した福島県双葉町の人たちの避難生活を取材したドキュメンタリー。放射能の影響で故郷に近づくこともできず、将来の生活も見えずに埼玉県の避難所から動くに動けない避難民の暮らしに入り込み、原発依存の生活や原発政策の問題点までもあぶり出していく。監督は、『ビッグ・リバー』『谷中暮色』などで国際的にも評価の高い舩橋淳。避難所生活の様子やデモに参加する住民たちの発言などから、一般の報道では見えてこない被害者の本音や対策の必要性が見えてくる。
(引用元:シネマトゥデイ)
原発事故により避難生活を余儀なくされた人たちの姿を追ったドキュメンタリー作品です。2012年10月に公開され、ベルリン映画祭をはじめ、ロンドン、ニューヨーク、香港など世界各地でも上映されました。おそらく、福島原発事故を描いたドキュメンタリー映画の中で最も広く観られている作品です。
▼現在、DVDが発売中です。
2014年に第二部も公開されています。
▼こちらもDVDが出ています。
『わすれない ふくしま』:四ノ宮浩監督
東日本大震災を発端に、福島第一原発北西40キロの飯館村から避難したある家族と、警戒区域で300頭の牛を飼い続ける畜産家を中心に、住民たちの日常を追ったドキュメンタリー。「忘れられた子供たち スカベンジャー」を監督した四ノ宮浩が、2011年4月下旬から12年12月まで現地取材を続けた記録をまとめた作品。
(引用元:Movie Walker)
こちらは2013年の作品。かつて日本一の美しさを誇ると言われた飯館村から避難した家族や、300頭の牛とともに村に留まる決断をした畜産家らの日常の姿を映し出しています。震災直後の2011年4月から約1年半に渡り、撮影されました。牛を殺処分されたことにより自殺に追い込まれた酪農家の姿など、様々な問題を浮き彫りにしている作品です。
上映会などの情報がわすれない ふくしま-公式ページに掲載されています。
▼DVDが出ています。
『いわきノート FUKUSHIMA VOICE』
未曾有の事故が起こった福島第一原子力発電所からも近く、原発の周辺町村から2万人以上の避難民を受け入れている福島県いわき市で、福島の人たちの声を世界に届けるため11人の大学生が中心となって製作されたドキュメンタリー。市の内外から職業も年齢も考えも異なる人々が集い、自らの経験や思いを語る「未来会議 in いわき」の場で出会った人々の対話を収めたほか、参加者の日常生活にも寄り添い、市井に生きる人々の言葉や物語を丹念に描き出していく。
(引用元:映画.com)
映画『フラガール』で知られる福島県いわき市で暮らす人々の日常とそれぞれの思いを訪ねる、2014年公開のドキュメンタリー。
この作品は、筑波大学の学生11人と映画会社アップリンクの協働により制作されました。農家や漁師、子育て中の母親、高校生、サーファー、仮設住宅で暮らす女性たちなど、様々な人々を学生たちが取材し、彼彼女らのリアルな思いを伝えてくれます。
2016年3月11日(金)より、映画本編がWEB上で無償公開されます。
いわきノート FUKUSHIMA VOICE-公式サイトをチェックしてみて下さい。
まとめ:震災は終わっていない
以上、福島に焦点を当てた10作品を紹介しましたが、これら以外にも、被災地の実情に迫った多くのドキュメンタリー作品が作られています。製作費が足りず、クラウドファンディングで資金集めをしているケースも多いようです。
2020年、東京ではオリンピックが開催されます。競技会場周辺の再開発に大量の税金が投入される一方、福島を始めとした被災地の現実は後景に押しやられ、震災の記憶は薄れていこうとしています。
このような状況に抗い、記憶の風化を防ぎ、現在進行形の問題として震災を捉える上で、まず僕たちがやれることと言えば知ることではないでしょうか。震災から月日が経てば経つほどに、今回紹介したようなドキュメンタリー作品の重要性は高まって来るのではないかと思います。