出典:トリップアドバイザー
東京・上野の国立西洋美術館(西美)が、過去2度にわたる登録の見送りを経て、2016年7月17日、世界文化遺産に登録されました。トルコでの軍事クーデター未遂の影響もありましたが、無事、正式に登録が決まりました。
推薦名称は、「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献」
1959年(昭和34年)に開館した国立西洋美術館(本館)は、フランス人建築家ル・コルビュジエが設計した日本で唯一の建築物です。
国立西洋美術館がある東京都台東区では、区を挙げてのPR活動を続けてきましたが、ようやくその苦労が報われた形となります。
では、国立西洋美術館の魅力とはなんでしょうか。今回は、世界遺産登録までの経緯からル・コルビュジエ設計の建築、常設展や企画展の充実ぶり、さらにはカフェやミュージアムストアの情報まで、国立西洋美術館の魅力を徹底解説します。
▼国立西洋美術館の公式ガイドブック。事前に読んでおくとより楽しめるかもしれません。
目次
国立西洋美術館の世界遺産登録までの経緯
▲第34回世界遺産委員会の様子(ブラジリア、2010年)出典:wikipedia
国立西洋美術館が世界遺産登録に至るまでの経緯をまとめてみました。
2004年、ル・コルビュジエの建築物の世界遺産登録に向けた委員会が、ル・コルビュジエ財団を中心して発足。フランスはル・コルビュジエの建築が現存する各国政府に参加を打診し、スイス、ベルギー、ドイツ、アルゼンチン、インド、日本の6か国が参加の意思を示しました。
2007年9月、日本の国立西洋美術館が暫定リストに入ります。
2009年6月、6か国共同で国立西洋美術館を含む22の作品を推薦しましたが、ユネスコの世界遺産委員会による審査にて「情報照会」と評価とされ、登録は見送られました。
2011年5月、ユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(ICOMOS、イコモス)による評価の結果、世界遺産への登録にふさわしくなく再推薦も不可とする「不記載」の勧告を受けます。
2015年1月、一度は辞退したインドを加えた7か国17作品を改めて推薦。
2016年5月、ICOMOSから「登録」を勧告されることが決定。
2016年7月17日、トルコで開かれた第40回世界遺産委員会で正式登録が決定しました。
日本国内における世界文化遺産の登録は、2015年の「明治日本の産業革命遺産」に続いて16件目となります。自然遺産も含めると20件目です。
日本における20世紀の建築物では、初めての世界遺産登録となります。
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日本で唯一のル・コルビュジエ設計の建築物。その特徴は?
全世界におよそ70件現存しているル・コルビュジエの建築物。国立西洋美術館(本館)は、日本で唯一のル・コルビュジエ作品となります。
ル・コルビュジエとはどんな人物?
Le Corbusier in his Paris office, January 18, 1949.Credi:AP
ル・コルビュジエは、アメリカのフランク・ロイド・ライト、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエと並び、近代建築の三大巨匠と称される人物です。スイスのラ・ショー=ド=フォン出身で、後にフランス国籍を取得。小住宅からニューヨークの国際連合本部ビルの原案まで、幅広い建築物に携わりました。
また、建築のみならず、絵画や彫刻、家具デザイン、さらには都市計画などにもその才能を発揮しました。
▲椅子のデザイナーとしても有名。出典:amazon.co.jp
「新しい建築の5つの要点」として、ピロティ、吹き抜け空間、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面を提唱し、これらは機能主義デザインの最も明快な理論とされています。現代の建築家で彼の影響を受けていない人はいないと言われるほど、近現代建築に多大な影響を及ぼしました。
▲ル・コルビュジエの代表作サヴォア邸。「新しい建築の5つの要点」のすべてが、高い完成度で実現されていると言われています。出典:トリップアドバイザー
日本においてもその影響は大きく、ル・コルビュジエから直接学んだ前川國男、坂倉準三、吉阪隆正をはじめ、丹下健三、槇文彦、磯崎新、伊東豊雄、安藤忠雄といった、近現代の日本建築界を代表する建築家達もル・コルビュジエの影響を受けていると言われています。
国立西洋美術館(本館)は、ル・コルビュジエが基本設計を担当し、その3人の弟子、前川國男、坂倉準三、吉阪隆正が実施設計・監理に協力して1959年(昭和34年)に完成しました。
ル・コルビュジエが目指した「無限成長美術館」
▲建設中の国立西洋美術館の写真 所蔵/国立近現代建築資料館 出典:Pen Online
ル・コルビュジエは「無限に成長する美術館」という、収蔵品の増加に合わせて増築できるように設計された、際限なく成長し続ける美術館を構想していました。展示空間を渦を巻くように螺旋状に配置することで、巻貝が成長するように、作品の増加に応じて周囲の敷地に展示スペースを広げていくというコンセプトです。
実際にこの構想を完全に実現した美術館の建設は果たせませんでしたが、インドの「サンスカル・ケンドラ美術館(1957年)」と「チャンディガール美術館(1965年)」、そして日本の国立西洋美術館は、この構想を土台に建設されました。
インドのサンスカル・ケンドラ美術館(1957年)は、国立西洋美術館(1959年)と同時期に竣工した美術館ですが、利用者も少なく、管理も行き届いていないようです。「無限成長美術館」というコンセプトを体現し、増築しながら“生きた”美術館として現存している国立西洋美術館は、ル・コルビュジエ建築の中でも貴重な作品だと言うことができると思います。
サンスカル・ケンドラ美術館はメンテナンスがおろそかにされていて、蜂の巣や鳩の糞が至る所にあり、内部の展示も色あせたものが飾られている状態でした。
国立西洋美術館は免震装置を取り付けたりしながら建物を活かそうとしており、いかに国立西洋美術館が大切に扱われてきているのかがよく分かります。
出典:(公社)日本建築家協会
▼ル・コルビュジエの「無限成長美術館」についての解説や設計図、写真などが掲載されている本。国立西洋美術館についてより深く知りたい人におすすめです。
免震への取り組み「免震レトロフィット」
▲前庭にあるロダンの「考える人」
1995年1月の阪神淡路大震災の教訓から、国立西洋美術館では建物の免震への取り組みがなされています。基礎部分に免震装置を取り付けるなど、耐震建物を免震建物へと改修する、「免震レトロフィット」と呼ばれる工法により、1998年、大規模な工事が行われました。また、地震から作品を保護するため、前庭の彫刻等にも免震台が設置されています。
無料配布の「建築探検マップ」で建物についてより深く知る!
常設展示室で建築探検マップが無料で配布されています。これは、2004年に開催された教育普及プログラム「建築探検─ぐるぐるめぐるル・コルビュジエの美術館」で使用されたワークシートを改訂したものです。
国立西洋美術館のホームページから、PDFファイルをダウンロードすることもできます。
「美術館には、絵や彫刻と同じくらい重要なものがあります。それは、建築。国立西洋美術館の本館を設計した建築家ル・コルビュジエは、身体のサイズを利用した‘モデュロール’という特別の定規や、それまでとは違う方法を使って新しい建築を考えました。1959年にできた本館には、ル・コルビュジエのいろいろなアイデアが活かされています。この建築探検マップには、本館の魅力を確かめることのできる16のチェックポイントがのっています。それらを確認しながら、ル・コルビュジエの美術館をスミからスミまで探検してみましょう。」(「建築探検マップ」より)
無料の建築ツアーも!(要予約)
ボランティアスタッフによる建築ツアーが行われています。ル・コルビュジエ設計の本館や前庭をスタッフとともに歩きながら、国立西洋美術館の設計から施工に至るまでの裏話などを聞くことができます。ツアーの料金は無料(別途、常設観覧券が必要)です。
日時:第2・第4日曜日(開館時)
15:00~(約50分)
対象:10才以上
定員:各回20名(先着順)
料金:無料。常設観覧券が必要です。
事前にご購入のうえ、集合場所にお越しください。混雑状況によっては購入に時間がかかる事もありますので、お早めにお越しください。
参加方法:事前の申し込みが必要です。ツアー実施日の2週間前、午前10時から申し込みできます。
(申し込み方法など、詳細は、国立西洋美術館ホームページでご確認ください。)
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国立西洋美術館の見どころ
松方コレクションとは?
▲実業家、松方幸次郎 出典:wikipedia
国立西洋美術館は、1959(昭和34)年、フランス政府から日本へ寄贈返還された「松方コレクション」の保存および公開のために設立された美術館です。
松方コレクションとは、実業家松方幸次郎が大正初期から昭和初期(1910年代から1920年代)にかけて収集したコレクションのことで、西洋の絵画・彫刻、日本の浮世絵が主体となっており、その内近代フランスの絵画・彫刻など約370点が、国立西洋美術館に収蔵され、公開されています。
常設展示は国内有数の充実度
国立西洋美術館の常設展示は、上で紹介した松方コレクションが核となっており、中世末期、ルネサンスから20世紀初頭にかけての西洋絵画、ロダンを中心としたフランス近代彫刻が展示されています。
当初はフランス近代の絵画・彫刻が中心でしたが、西洋の18世紀以前の画家(オールド・マスター)の作品の購入を続け、現在では西洋美術史の流れに沿って鑑賞できる、体系的な展示が行われています。
ルノワールやモネの絵画、ロダンの彫刻が常設展示で見られるというのは嬉しいですね。
▲モネ『睡蓮』1916年 出典:wikipedia
ミケランジェロ、ラファエロ、ゴッホ、ピカソ・・・企画展では世界の名作が次々来日!
▲2013年に開かれた『システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展―天才の軌跡』
国立西洋美術館の企画展では、世界の傑作美術作品が数多く展示されてきました。近年では、2011年に『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』が、2013年には『ラファエロ』、『システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展―天才の軌跡』が開催されています。
僕は『日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展』(2016年3月1日~2016年6月12日)に行ってきました。鑑賞レポートも書いたので、興味のある方はご覧ください▼
国立西洋美術館の混雑状況は?
世界文化遺産の登録が決定した国立西洋美術館ですが、やはり登録前に比べて訪れる人が増えているようです。ただ、決定直後の混雑に比べると現在は大分落ち着いている模様。
ル・コルビュジエ建築目当てに来る人は基本的に常設展に行くため、常に空いていて落ち着いた雰囲気だったかつての西美の常設展とは様子が変わってきています。
今後、企画展で人気の展覧会が催される場合は今以上の混雑になることが予想されます。
追記:世界文化遺産登録以後、何度か西美に行きましたが、今のところ美術館目当ての人はほぼ企画展には行かないようです。企画展の混雑は展覧会の内容如何といった感じだと思います。
▼私が行った展覧会はコチラ
放送直後の混雑は?テレビ放送情報
▼テレビ東京の『美の巨人たち』で国立西洋美術館が特集されます。
放送時間:8/6(土)22:00-22:30※放送は終了しました。
4週連続日本の建築シリーズ第1弾は『国立西洋美術館』。
1958年に着工、翌年3月に完成しました。今年7月に世界文化遺産登録された「ル・コルビュジエの建築作品」全17施設の一つです。コルビュジエは、ヨーロッパの建築が石と漆喰でつくられていた時代に全く新しい思想を持ち込んだ“現代建築の父”です。残された設計図にはちょっと不思議なところが…!?『ロンシャン礼拝堂』『サヴォワ邸』などの名建築も紹介します。
出典:美の巨人たち
鑑賞後は、『CAFÉすいれん』でひと休み
▲中庭の緑を眺めながらひと休み 出典:食べログ
鑑賞後にひと休みしたいときにおすすめなのが、国立西洋美術館内にあるカフェレストランCAFÉすいれん。中庭を眺めながら食事やお茶が楽しめます。
ケーキセットや、魚料理、肉料理、オムライス、ビーフカレー、コース料理まで揃っていて、ドリンクはワイン、ビールも注文できます。
観覧券なしで入れる本館のフリーゾーンにあるので、食事またはカフェのみの利用も可能です。
CAFÉすいれん
営業時間:10:00~17:15
(食事11:00~16:30 ラストオーダー17:00)
美術館の冬期開館期間
10:00~16:45
(食事 11:00~16:00 ラストオーダー 16:30)
金曜日10:00~19:45
(食事11:00~19:00 ラストオーダー19:30)
休業日: 毎週月曜日(ただし、月曜日が祝日または振替休日となる場合は翌日)
年末年始(12/28~1/1)
その他美術館休館日に準ずる
席数: 84席
CAFÉすいれん
ミュージアムショップ
▲館内のミュージアムショップ。写真は『ラファエロ展』開催時の企画展グッズ。出典:インターネットミュージアム
モネの《睡蓮》をはじめとした国立西洋美術館の収蔵品関連グッズや、収蔵品カタログ(名作選)、企画展の関連グッズ、過去に開催された展覧会のカタログを販売しています。
ミュージアムショップは、本館の正面入口を入ってすぐ、観覧券なしで入れるフリースペースにあるので、ミュージアムグッズやカタログ購入のみを目的として入館することも可能です。
アクセス・チケット・休館日他
▲アクセスマップ 出典:国立西洋美術館
国立西洋美術館は東京都台東区の上野公園の中にあります。上野公園には、国立西洋美術館の他に、「東京都美術館」、「東京藝術大学大学美術館」、「上野の森美術館」、「東京国立博物館」、「国立科学博物館」などがあります。
上野公園内には「上野動物園」もあるので、GWなどの大型連休の時期は公園自体がとても混み合います。また、桜の季節には花見客が大勢訪れることでも有名です。
基本情報
・住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号
JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分/京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分/東京メトロ銀座線、日比谷線上野駅下車 徒歩8分
・開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金曜は午後8時まで)
※ただし、秋の企画展閉会日以降の開館日から春の企画展開催日までの開館期間中は午前9時30分~午後5時
入館は閉館の30分前までです。
・休館日:毎週月曜日
※ただし、月曜日が祝日又は祝日の振替休日となる場合は開館し、翌日の火曜日が休館
※年末年始(12月28日~翌年1月1日)
・無料観覧日:毎月の第2、第4土曜日、文化の日(11月3日)
※常設展示のみ無料となります。
・常設展観覧料:一般430円 大学生:130円 団体(20名以上)一般:220円 団体(20名以上)大学生:70円
※高校生以下及び18歳未満、65歳以上、心身に障害のある方及び付添者1名は無料
(その他、詳細は国立西洋美術館ホームページでご確認ください。)
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