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ミュシャ展の感想と混雑|幻の超大作《スラヴ叙事詩》が世界初公開!

      2017/06/03

東京・六本木の国立新美術館で開催中のミュシャ展(会期:2017年3月8日 – 6月5日)に行ってきました(画像は《スラヴ叙事詩》イヴァンチツェの兄弟団学校より)。

日本でも高い人気を誇るアルフォンス・ミュシャの展覧会はこれまでに何度も開かれてきましたが、今回はレベルが違います。

幻の超大作『スラヴ叙事詩』全20作がミュシャの母国チェコ以外では世界初公開となります。

この機会を逃すと縦6m×横8mの巨大絵画の連作を日本で観られる日は二度と来ないかもしれません。

以下、ミュシャ展の混雑や感想、印象に残った作品、ショップで買えるオリジナルグッズ情報などを紹介します。

▼同時期開催の草間彌生展にも行ってきました。

ミュシャ展の混雑

チケット売り場に行列が

それではミュシャ展の混雑についてレポートします。

私が国立新美術館を訪れたのは3月中旬の平日12時半頃

人気のミュシャ、さらに超大作『スラヴ叙事詩』全20作が初来日ということで、かなりの混雑を覚悟していましたが、予想通り平日にもかかわらずなかなかの混み具合でした。

まず、チケット売り場に長い列ができていました。これは同時期開催の草間彌生展の影響もあると思います。

草間彌生展もミュシャ展同様話題になっていますから、両展覧会のチケットを求める人がバッティングすれば必然的にチケットカウンターは混雑します。

▼平日の14時半頃の様子。

ですので、これから行こうと考えている方は、チケットを事前に購入しておくことをおすすめします。

ちなみに私は家を出る前にチケットをオンラインから購入していたので並ばずに入場できました(スマホ画面にQRコードを表示するだけなので簡単)。

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ショップのレジに長蛇の列

国立新美術館内に入り、エスカレーターを上がると(ミュシャ展の会場は2F)またもや長蛇の列が目に入ります。

これは、入場待ちの列ではなく、オリジナルグッズが販売されているショップのレジ待ちの列。

国立新美術館1Fで開催の草間彌生展もショップが大盛況でしたが、それに負けず劣らずの混雑ぶりです。

ただ、入場口には列はできておらず、待ち時間は0分でした。

会場内もそれなりの混雑具合

会場に入るとすぐに今回の展覧会の目玉作品『スラヴ叙事詩』全20作がお目見えします。

ここは広大な展示スペースなので、人は多くても頭が邪魔で作品が観られないというようなことはありませんでした。

▼会場内の混雑の様子。『スラヴ叙事詩』の一部は撮影可能です。

スラヴ叙事詩以降のポスターや挿絵の展示スペースはぐっと狭くなるので、混雑具合は増します。平日の昼間でもけっこうな混みようでしたので、ゴールデンウィーク中などはかなりの混雑が予想されます。

Twitterなどの情報によると、やはり土日も混雑しているようですが、会場が広いので鑑賞に支障をきたすレベルではないようです。

今後、主催に名を連ねるNHKで特集番組の放送も予定されているので、さらに混雑は増していくものと思われます。

女優多部未華子がパリ、プラハでミュシャの足跡を辿るドキュメンタリー番組がNHKで放送されます。
番組名:『華麗なるミュシャ 祖国への旅路 パリ・プラハ 二都物語』
チャンネル:NHK総合
放送時間:3月16日(木)
※放送は終了しました。

NHK総合の日曜美術館でミュシャが特集されます。私の経験上、日曜美術館の影響力は非常に大きく、放送後は来館者数がかなり増加することが予想されます。日曜美術館放送後の混雑具合には注意が必要です。

番組名:【日曜美術館】ミュシャ 未来を見つめる超大作「スラヴ叙事詩」
チャンネル:NHK総合
放送時間:4月16日(日)AM9:00

リアルタイムで混雑具合を調べたい場合は、国立新美術館の公式Twitterがチケット購入の待ち時間や会場内の混雑についてつぶやいているのでチェックすることをおすすめします。

【6/3追記】

入場者数が60万人を突破したミュシャ展ですが、会期末が近づくにつれものすごい混雑となっているようです。これはどの展覧会にも言えることですが、やはり会期の終了間際になると混みますね。

▼入場まで90分待ちの大混雑。

所要時間

全ての解説を読み、じっくりと鑑賞した上での所要時間は約2時間でした。

ただ、『スラヴ叙事詩』の展示はそれこそ何時間でも観れてしまうほどに見ごたえがあるので、人によっては所要時間が3時間以上になるかもしれません。

※私が行ったときには、一通り鑑賞した後、再びスラヴ叙事詩の展示に戻れるようになっていました。

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ミュシャ展の感想と作品紹介

今回のミュシャ展の構成は以下の通りです。

<スラヴ叙事詩>
1.ミュシャとアール・ヌーヴォー
2.世紀末の祝祭
3.独立のための闘い
4.習作と出版物

まず冒頭でチェコ国外では世界初公開となる『スラヴ叙事詩』の展示があり、その後アール・ヌーヴォーの画家として一世を風靡したパリ時代の作品やチェコスロヴァキア独立後に制作されたポスターなどが展示されています。

以下、ミュシャの作品を(展覧会の構成とは異なりますが)パリ時代のポスターからチェコに帰国後に描かれたスラヴ叙事詩まで、時系列に沿って紹介したいと思います。

※画像付きで紹介している作品は、特記がない限り今回の展覧会に出品されているものです。

苦労人ミュシャ。一夜にして時代の寵児に

By George R. Lawrence Co., Chicago. [Public domain], via Wikimedia Commons

アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)は、オーストリア領モラヴィア(現在のチェコ)の田舎町イヴァンチツェに生まれました。

※名前のミュシャはフランス語読み。チェコ語の発音ではムハ

▼ミュシャ(ムハ)の生地イヴァンチツェ(Ivančice)

Kirk from cs: [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html), via Wikimedia Commons

少年時代から画家を志していたミュシャですが、裁判所の官吏だった父親の反対を押し切ってプラハの美術学校を受験するも不合格に。

その後、ウィーンの劇場の舞台装飾の仕事をするも工房が火災になり失職。似顔絵などを売りながら生活の糧を得る中、ミクロフのクーエン・ブラシ伯爵(Count Karl Khuen of Mikulov)に才能を見出され、彼の後援を受けて27歳でパリに留学します。

パリに渡って2年後にパトロンだった伯爵が自殺し、またもや窮地に立たされたミュシャですが、34歳のとき「ベル・エポック」を代表する女優サラ・ベルナール主演の舞台「ジスモンダ」のポスターを制作したことで一躍時の人に。

植物や宝石に装飾された女性を美しい曲線によって描いたミュシャのデザインは人気を博し、瞬く間にアール・ヌーヴォーの旗手としての地位を築き上げました。

- ジスモンダ / 1895年 -

アルフォンス・ミュシャの名を一躍パリに轟かせた出世作《ジスモンダ》は、横75cm、縦は2mを超えるリトグラフ(石版画)です。王妃ジスモンダが右手に持つのはシュロの葉。画面上部にはタイトル、頭上には主演のサラ・ベルナールの名、足元には公演が行われたルネサンス座の名前が描かれています。

▼パリ時代のミュシャが描いたポスターの代表作『四芸術

- 四芸術「詩」 / 1898年 -

- 四芸術「ダンス」 / 1898年 -

- 四芸術「絵画」 / 1898年 -

- 四芸術「音楽」 / 1898年 -

《四芸術》は、詩・ダンス・絵画・音楽の四つの芸術ジャンルを象徴する女性の姿を華麗に描いた連作。ミュシャは他にも《四つの花》(1897年)、《四季》(1896年)などの連作を描いています。

- メディア / 1898年 -

エウリピデスによるギリシア悲劇『メディア』を戯曲化しサラ・ベルナールが主演した舞台劇のポスター。夫の不義を知ったメディアが復讐のため、彼との間に生まれた子ども2人を殺害した場面が描かれています。

ミュシャ作品に特徴的な目を大きく見開いたメディアの表情が強烈に印象に残りました。

パリ万博を契機に汎スラヴ主義に傾倒

1900年に開かれたパリ万博 / Lucien Baylac (1851–1913)

1900年に開かれたパリ万博でミュシャは、当時オーストリアに併合されていたボスニア・ヘルツェゴヴィナのパヴィリオンの装飾を任されました。

その取材のためバルカン半島を訪れたミュシャは、当地で支配される人々の屈辱と苦しみを目の当たりにし、次第にスラヴ民族の独立・自決のための作品作りを志すようになります。

この時期に後の《スラヴ叙事詩》の構想を得たとも言われています。

自らが属するスラヴ民族への意識の高まりは女性の描写にも変化を与え、以前に比べ丸顔でふくよかな容貌が描かれるようになりました。

- ヒヤシンス姫 / 1911年 -

《ヒヤシンス姫》は、1910年にチェコに帰国したミュシャが一年後の1911年に描いた作品。バレー・パントマイム『ヒヤシンス姫』のポスターで、チェコを代表する映画女優アンドゥラ・セドラチコヴァがモデルとなっています。パリ時代に描かれた曲線美が際立つ華麗な女性とは異なり、力強さと自信に満ちた佇まいが印象的です。

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スラヴ叙事詩|圧倒的なスケールで描かれた全20作

アメリカの資本家チャールズ・R・クレインから金銭的な援助を受けたミュシャは1910年にチェコに帰国。

1911年、プラハ近郊にあるズビロフ城にアトリエを設けて《スラヴ叙事詩》の制作を開始します。

ミュシャはスメタナの連作交響詩《わが祖国》を聴いたことで《スラヴ叙事詩》制作への決意を固めたとも言われています。

▼スラヴ叙事詩を制作中のミュシャ(1920)。壁画ではなくカンヴァスに描かれています。

ミュシャが約16年をかけて描きあげた超大作《スラヴ叙事詩》全20作は、チェコ国外では本展覧会が世界初の公開となります(いくつかの作品は1920年代にアメリカのシカゴ、ニューヨークで展示されたことがあります)。

一筋縄ではいかなかった日本での公開

スラヴ叙事詩は縦6m×横8mと、近代絵画としては桁違いの大きさを誇る大作です。

作品が傷んでしまうことを危惧したミュシャの孫がアジアへの巡回ツアー(スラヴ叙事詩はこの後、中国へと巡回します)の中止を求めて訴訟を起こすなど、作品を国外で展示することに対して懸念の声も挙がりました。

参照:Alphonse Mucha’s grandson sues Prague to stop Asian tour of Slav Epic

どうやらスラヴ叙事詩の所有権についてプラハ市とミュシャの遺族との間で見解の違いもあるようですね。

ともあれ、今回無事に来日が実現できてなによりです。

これほどに巨大な絵画をどのように運んだのかも気になるところですが、輸送の際には筒状にクルクルと巻いた状態で運ばれたそうです。

▼作品を会場に設置する様子は動画で公開されています。

スラヴ叙事詩|作品紹介

では、大作《スラヴ叙事詩》の中から印象に残った作品をいくつかピックアップして紹介します。

- 原故郷のスラヴ民族(トゥーラニア族の鞭とゴート族の剣の間に) / 1912年 -

会場に入ってすぐのところに展示されている《原故郷スラヴ民族》は、画面全体を支配する青が印象的な作品。異民族の襲撃から身を隠すスラヴ人の姿が描かれています。画面左上には燃え盛る炎、その横には攻め寄せる異民族が描かれる一方で、星が輝く夜空のせいか作品全体が静けさに満ちています。画面右上にはキリスト教以前の多神教時代の司祭が祈りを捧げ、左下ではスラヴ人の祖先が身を隠しています。スラヴ人女性の目を見開いた表情が目に焼き付いています。

- ベツレヘム礼拝堂で説教をするヤン・フス師(「言葉の魔力」-真理は打ち勝つ) / 1916年 -

宗教改革の先駆けとなったヤン・フスがベツレヘム礼拝堂にて最後の説教を行う様子を描いた作品。巨大なカンヴァスの前に立つと、自分も礼拝堂の群衆に混じってその場に居合わせているような錯覚を覚えます。画面左の少し高い位置から身を乗り出しているのがフスです。画面右、天幕の下にはヴァーツラフ4世王妃ソフィア(冠を被り白い服を着た女性が横を向いて椅子に腰かけているのが分かるでしょうか)が描かれています。

ヤン・フスとは -
ヤン・フス(1369年頃~1415年)は、ボヘミア(チェコの西部から中部を指す歴史的な名称)出身の宗教改革者。腐敗したカトリック教会を批判し、後にルター、カルヴァン、ツヴィングリへと引き継がれるプロテスタント運動の先駆者となりました。多くの支持者を得ましたが、カトリックからは破門。火刑に処されました。後にフスを支持するフス派とカトリックの間でフス戦争が行われ、《スラヴ叙事詩》の中にも<ヴォドナャニのペトル・ヘルチッキー>などフス戦争やフス派と関わりのある人物を描いた作品が見られます。

- 二コラ・シュビッチ・ズリンスキーによるシゲットの対トルコ防衛(キリスト教世界の盾) / 1914年 -

副題の「キリスト教世界の盾」という言葉からもわかる通り、ヨーロッパの東側に住んでいたスラヴ民族にとって異教徒であるオスマン帝国は脅威でした。ここで描かれているのは、クロアチア総督ズリンスキーがスレイマン大帝率いるトルコ軍を迎え撃ったシシゲットヴァール攻囲戦の様子です。血なまぐさい描写を嫌ったミュシャが唯一スラヴ叙事詩の中で描いた戦闘の場面です。ズリンスキーの妻エヴァが火薬庫に火を放ったことで炎が上がっていて、画面全体が赤く光る様は比較的落ち着いた色で描かれている他の作品と見比べたときにひと際目立ちます。

- スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオラムジナ会の誓い(スラヴ民族復興) / 1918年 -

民族主義的な組織である「オムラジナ」の集会の様子を描いた作品。20世紀初頭には過激派とみなされて弾圧を受けました。画面左下でハープを弾く少女はミュシャの娘ヤロスラヴァ、右側で横を向く少年は息子イージー(ジリ)がモデルとなっています。

ちなみに、ここに描かれている息子イージー(ジリ)は後にジャーナリスト、作家となる人物です。ミュシャ作品の権利保護などを目的とする「ミュシャ財団」の設立者で今回の《スラヴ叙事詩》の国外展示に反対していたジョン・ミュシャ氏はイージーの息子で、ミュシャの孫にあたります。

顔がしっかりと描かれていない人物がいるなど、《スラヴ叙事詩》20点の中で唯一未完成であるとも言われています。また、中景左の男性2人のポーズがナチスの敬礼を連想させる等の理由で、本作のみ展示されなかったこともあったようです。

▼ミュシャの息子イージー(ジリ)がモデルの少年。

▼ミュシャの娘ヤロスラヴァ。1928年に開催されたスラヴ叙事詩展覧会では同じポーズのポスターが作られています。

▼娘ヤロスラヴァの写真。本作以外にも、ミュシャは実際に人々に衣装を着せて写真を撮り、それを元に作品を描くという手法を用いていました。

- ロシアの農奴制廃止(自由な労働は国家の礎) / 1914年 -

モスクワの赤の広場で農奴制の廃止が告げられ、人々が「自由」を獲得した場面を描いた作品。背景に描かれているクレムリン宮殿には靄がかかる中、手前の人々は明瞭に描かれています。

▼画面右下に描かれている犬。

- スラヴ民族の賛歌(スラヴ民族は人類のために) / 1926年 -

『スラヴ民族の賛歌』は一連のスラヴ叙事詩作品の中で描かれてきたスラヴ民族の歴史の集大成的な作品。スラヴ民族の「神話の時代」、多くの血が流れた「フス戦争」、スラヴ民族にとっての「敵対勢力」、自由と平和のために「連帯するスラヴ人たち」といった象徴的イメージが配されています。中央で大きく両手を広げている青年はオーストリア=ハンガリー帝国から独立したチェコ(当時はチェコスロヴァキア)の自由と独立を表し、その背後にはキリストの姿が描かれています。

ミュシャの死とその後のスラヴ叙事詩

《スラヴ叙事詩》全20作は1928年、美術館に常設展示することを条件にプラハ市に寄贈されました。

寄贈後も財政的な問題等により、《スラヴ叙事詩》を常設展示する美術館は建設されていません。このことが、本作の所有権に関する遺族側とプラハ市との見解の相違に繋がっているようです。

1921年には《スラヴ叙事詩》のうち5作品が海を渡り、シカゴとニューヨークで公開され大盛況となりました。

チェコスロヴァキア独立10周年にあたる1928年には、プラハにあるヴェレトゥルジュニー宮殿で19点が一般に公開されましたが、キュビスムやロシア・アヴァンギャルドが隆盛を極めた時代にあって、《スラヴ叙事詩》の古典的な画風は保守的であるとも言われ、評判は良くありませんでした。

▼1928年に開かれたスラヴ叙事詩展覧会のポスター。ハープを弾く少女(ミュシャの娘ヤロスラヴァがモデル)が、《スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオラムジナ会の誓い》と同じポーズで描かれています。

1939年、ミュシャはナチスドイツのチェコスロヴァキア侵攻のさなかに逮捕され、厳しい尋問の末、釈放された4か月後に体調を崩し亡くなりました。

ミュシャの作品が「国民の愛国心を高揚させる」ものだということが逮捕の理由でした。

平和を希求する祈りのような作品を描いた晩年のミュシャですが、皮肉なことに、人類史上最悪の犠牲者を生んだ第二次世界大戦の渦中でその生涯を終えました。

《スラヴ叙事詩》は1939年、ナチスドイツの略奪から逃れるため筒状に巻かれた状態で保管され、20年以上の間日の目を見ることはありませんでした。

1963年以降、モラフスキー・クルムロフの城館で再び展示されましたが、アクセスの悪さや展示環境、セキュリティ面の問題からプラハ市がプラハに戻すように要請、2012年からはプラハ国立美術館のヴェレトゥルジュニー宮殿で展示されています。

ミュシャの孫であるジョン・ミュシャ氏が訴えを起こすなど、国外での展示に批判の声も上がる中、《スラヴ叙事詩》は2017年の国立新美術館での展示を終えた後、2018年にかけて中国の美術館を巡回し、その後韓国、アメリカでの展示も計画されています。

展覧会全体の感想|ミュシャの個性とスラヴ叙事詩の特異性

今回の展覧会では、《スラヴ叙事詩》からパリ時代のポスターやアクセサリー、チェコスロヴァキア時代の切手など、異なるスタイルのミュシャ作品を見て回ることができました。

そこで思ったのは、彼の画家としての個性が最も輝いているのは、パリ時代に描かれたポスターだということです。広く大衆に訴求する魅力的でポップなデザインは、今の時代に見ても鮮烈な印象を受けるものばかりでした。

それに対して大作《スラヴ叙事詩》は、ミュシャが存命中に公開された折、「保守的な伝統主義の産物」との評価があったように、静謐な雰囲気が漂う色使いや神秘的なイメージなど、随所にミュシャ独特の表現が観られるものの、作品自体に宿る際立った個性といったものは感じられませんでした。

ただ、ルネサンス時代のような圧倒的なスケール感で特定の民族の歴史を表現した本作が近代絵画史の中で特異な位置を占めることもまた確かです。ましてや《スラヴ叙事詩》が描かれたのは前衛的な芸術運動が時代を席巻していた20世紀初頭です。

そんな時代に、古典主義的技法でこれだけ巨大な歴史画が(しかも20点の連作という形で)描かれたというのは奇跡的なことだと思います。その情熱、創作意欲というものもまたとてつもないものがあります。

神聖ローマ帝国やオスマン帝国、オーストリア=ハンガリー帝国など、大国の影響にさらされ続けたチェコの歴史、アメリカ人のパトロン、チャールズ・R・クレインとの出会いなど、様々な諸条件が重なり合って《スラヴ叙事詩》という美術史的にみても「特異な」作品は生み出されました(私は会場に入ってすぐ「なんだこれは」と、なにかこれまでに観たことがない異様とも呼べる作品を目の前にしている感覚に襲われました)。

超大作《スラヴ叙事詩》の歴史的背景やその後本作が辿った数奇な運命(ナチスドイツの進軍、共産党政権下における不遇な時代)を知れば知るほど、今回の展示が一生に一度レベルの貴重な機会であることを思い知らされます。

【追記】
芸術新潮2017年3月号によると、スラヴ叙事詩は、単純に古典的なアカデミズム絵画の手法で描かれたわけではないとのこと。当時の様々な絵画技法がふんだんに盛り込まれているそうです(たとえばジョルジュ・スーラらの点描画的手法など)。どうやら、何度か会場に足を運ばないと見えてこないものがありそうです。

グッズ情報

今回のミュシャ展のグッズショップは大盛況で、レジ待ちの長蛇の列ができていて驚きました。

目にしたらどれも欲しくなってしまうようなものばかりです。

イラストレーターとして非凡な才能を発揮したミュシャですから、絵ハガキやクリアファイルなどとの親和性はめちゃくちゃ高いです。

チェコつながりということで、チェコの藍染を使用した傘やトートバック、もぐらのクルテクなど、世界的にも人気の高いチェコアニメのキャラクター商品なども販売しています。

▼ミュシャ展の公式図録は一般でも購入可能です。

音声ガイドは檀れい

ミュシャ展の音声ガイドでナビゲーターを務めるのは女優の檀れいさん。

本展覧会の最大の目玉作品である《スラヴ叙事詩》全20作は、スラヴ民族の歴史や汎スラヴ主義、宗教改革の先駆者ヤン・フスについてなど、歴史的背景を知った上で鑑賞するとより深く作品世界を味わうことができるので、音声ガイドはおすすめです。

音声ガイド
ナビゲーター:檀れい
貸出価格:520円(税込)

▼檀れいさんからのメッセージ動画。会場内の展示の様子も見られます。

ミュシャ展|概要

会期 / 会場 / チケット / アクセス

展覧会名:国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業『ミュシャ展』

会期:2017年3月8日(水)- 6月5日(月)

休館日:毎週火曜日 ※5月2日(火)は開館

開館時間:10:00 – 18:00
※金曜日は20:00まで
※4月29日(土)から5月7日(日)までは毎日20:00まで開館

会場:国立新美術館 企画展示室2E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2

最寄駅は、都営大江戸線・東京メトロ日比谷線の六本木駅、または東京メトロ千代田線の乃木坂駅となります。

チケット(当日券):一般1600円・大学生1200円・高校生800円

なお、同時期に開催されている『草間彌生展』(会期:2017年2月22日- 5月22日)も大変人気なので、チケット売り場はかなり混雑します。

入場までの待ち時間を短縮するためにも、事前にチケットを購入しておくことをおすすめします。

チケットはオンラインでも購入可能です。

私は自宅でチケットを購入し、スマホにQRコードを表示させて入場しました。

▼QRコードで入場しても半券はもらえます。

チケット等の詳細はミュシャ展公式HPで確認してください。
http://www.mucha2017.jp/ticket/index.html

- 関連書籍など -

▼ミュシャ展の公式図録はこちら。

▼ミュシャの生涯と作品を網羅したミュシャ財団監修の大判画集。公式図録よりも手軽な画集が欲しいという方におすすめです。

▼ポスターから挿絵、工芸品までミュシャ作品全180点がオールカラーで掲載されている新書。《スラヴ叙事詩》全作品の解説付き。

▼芸術新潮2017年3月号は今回の展覧会に合わせてミュシャの大特集が組まれています。

▼ミュシャが演奏を聴き《スラヴ叙事詩》制作の意志を固めたとも言われるスメタナの連作交響詩《わが祖国》スメターチェク指揮によるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。

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