「すくすく子育て」について思うこと。父親の存在感なさ過ぎ問題

子ども(現在5歳)が生まれて以降、視聴するテレビ番組の傾向が大きく変わった。特にEテレを視聴する時間が激増している。

子どもが3歳頃までよく観ていたのは「いないいないばぁっ!」や「おかあさんといっしょ」(定番ですね)。

「ムジカ・ピッコリーノ」、「フックブックロー」(2016年に放送終了)などの歌番組も親子で楽しんでいた。

現在、うちの5歳がはまっているのは「デザインあ」、「ピタゴラスイッチ」、不定期で放送されている「Q〜こどものための哲学〜」など。その他にも「又吉直樹のヘウレーカ!」、「地球ドラマチック」など、Eテレの番組にはお世話になっている。

テレビはほぼEテレしか見ていないと言っていいかもしれない。子どもと安心して観られる番組は少ないですからね。

そんなEテレの番組の中でもほぼ毎週かかさず観ているのが「すくすく子育て」で、妻の出産前から現在まで見続けている。

私は子育ての悩みを抱えたとき、基本的にスマホで検索するのだけど(「夜泣き いつまで」とか)、信頼できる育児情報にアクセスするのがなかなか困難だと感じている。Googleの検索アルゴリズムは日々進化しているとはいえ、まだまだ信憑性を疑わせるような情報を掲載しているサイトが上位表示されていることも多い。

そんな中、ある程度信頼性が高いと思われる育児情報をまとまった形で提供してくれる「すくすく子育て」は、私たち育児中の親・保護者にとって貴重な番組と言える。私自身、同じように子育てに悩んだり大変な思いをしている方の様子を見て共感し、各分野の専門家のアドバイスによって不安が和らぐといった経験を何度かしている。

ただ、番組を観ていて常に違和感を覚えることが一つある。

それは、父親の存在感が希薄ということ。

育児を主に担うのは母親(妻)であり、父親(夫)はあくまでもサポートをお願いされる側という前提が透けて見えるように感じられるのだ。

2019年1月5日に放送された「お願い上手になろう!」の回ではこの問題がわかりやすく顕在化しているように思えた。

そして、以下のTweetをしたところ多くの方から反響をいただいた。

Tweetでは書ききれなかったこともあるので、以下、考えをまとめておこうと思う。

「お願い上手になろう!」回の内容

今回視聴した「お願い上手になろう!」の回のテーマは、育児・家事で大変な思いをしている母親がいかにして周囲の人々にサポートをお願いするか、その心構えやTipsを紹介するというもので、全体としては育児を1人で抱え込み、周りに頼ることを躊躇してしまう母親の背中を押すといった内容。

サポートを依頼する対象は祖父母や地域の子育て支援の集まりなどで、「頼ることは怠けることではない」「頼られることで喜ぶ人もいる」等のアドバイスはその通りだよねと見ていて思った。

参照:すくすく子育て|お願い上手になろう!

私が強く違和感を覚えたのはサポートを依頼する対象に「父親(夫)」が含まれていたこと。パートナーと共に子育ての主役になるべきはずの父親がなぜ「お願いされる側」なのかと。

「男は悟れない」と言い切る専門家

番組はどうやら父親が「お願いされる側」であることを当然の前提としているようで、その構図に疑義を呈する発言は放送中聞かれなかった。

そして、専門家として出演していた武庫川女子大学の倉石哲也教授(臨床心理士)が、男はそもそも察することができないので妻は具体的に指示を出すようにというアドバイスをする。

残念ながら、パパが自分から気づくことは難しい場合が多いと思います。パパにお願いするときは、具体的に伝えることがポイントです。例えば、お風呂掃除をお願いするときは、「洗剤と道具はこれ。ここをこう洗ってほしい」など、細かく伝えたほうがよいと思います。特に最初はしっかりと教えてください。そして「ここはあなたにお任せしましたよ」と信頼を伝えることも大事です。

参照:すくコム|NHKエデュケーショナル

司会を務める優木まおみさんが「そうなんですか?子育てしてればそれくらい分かりますよね」と明らかに納得していない様子を見せると、倉石さんは「いや、男ってそうなんですよ。ねえ、お父さんたち」とスタジオに来ている父親に同意を求める始末。

公共放送の育児番組に出演する専門家の口からこういった発言が出ることには心底驚いた。ましてや倉石さんは女子大で教鞭を取る方。余計なお世話かもしれないけど、普段女子学生の前でこのような考え方を示しているのではないかと心配にもなる。

「男はそういう生き物」なんてのは家事・育児負担を逃れたい夫・父親によるエクスキューズの定番だ。私のTweetにも「男は生物学的に云々」といったリプを送ってくる人がいた(会話にならなそうだったので返信は遠慮しましたけど)。男は〇〇、女は〇〇というような根拠薄弱な理屈(反証を挙げればきりがない)を盾に家庭内で家事・育児を妻に丸投げする夫が世の中に掃いて捨てるほどいるという現実を育児番組に呼ばれるような専門家の方が知らないわけないと思うのだが。

そもそも子育ての当事者としての自覚があれば、今なにをなすべきかというのは分かって当然だと思う。そこに性別は関係ない。家事育児はルーティンの部分も多分にある。具体的に言われないとわからないと主張する男性は職場でも一々仕事の指示をされないと動けないのだろうか。

それに、男性がみな「具体的に指示されないと動けない」などと言ってしまうのは家事育児に主体的にコミットしている男性たちに対して失礼だとも思う。私もそういった男性のうちの1人であると自認しているが、「あんたと一緒にするな」と言ってしまいたくなる。

ありがとうのサンドイッチ

もう1人の専門家としてゲスト出演していた産婦人科医の吉田穂波さんは「ありがとうのサンドイッチ」なるものを推奨していた。

「お互いが気持ちよくなる伝え方」とのこと。

感謝の言葉「ありがとう」で、お願いごとをサンドイッチする伝え方です。
まずは、「パパ、今ちょっといい?」というように、相手の名前を呼んで都合を聞きます。続いて、「いつもゴミ出ししてくれて、ありがとう」のように、感謝の言葉を添えます。そして、「これをしてもらえると助かるな」など、具体的にお願いします。さらに、頼んだ後にも「聞いてくれて、ありがとう」と、感謝の言葉を伝えます。

参照:すくコム|NHKエデュケーショナル

吉田さんは様々な葛藤を経た末にこの方法に辿りついたのだと思う。吉田さん夫婦にとってはお互いにイラつくことがなく事を円滑に進める有効な方法だったのかもしれない。ただ、これは「我が家の場合」でとどめておくべき話ではないだろうか。吉田さんのパートナーは「自分のお願いがきいてもらえるかどうかにかかわらず、その人の存在だけでもありがたいと思える(番組での発言より)」人なのかもしれないけど、世の夫が皆そうではない。

こういった方法で上手く回っている家庭があることを否定はしないけど、番組が何の注釈も入れずに推奨すべきものではないと私は思う。夫婦間で対等な関係性が築けているならまだしも、そうでない家庭だって多いのだから。

この方法について、コミュニケーション一般の話に置き換えて肯定するTweetや私へのリプなども見られたが、番組では妻→夫のケースのみに言及しており、私は特にその点を問題だと思っている。

父親の存在感の希薄さ|公共放送の育児番組に求めたいこと

今回視聴した「お願い上手になろう!」の回で顕著だったように、私は父親が育児の脇役であることを前提とするような番組の作りに疑問を感じる。

「すくすく子育て」は母親がスタジオで育児の悩みを語り専門家からアドバイスを受けるというのが基本の形となっている。その隣には父親がいることもあれば、いないこともある。

スタジオでマイクを持って悩みを語るのはほとんどの場合が母親。おそらく9割以上。母親がひとしきり語った後(ときにスタジオで涙する人もいる)、「奥様はこうおっしゃってますけど、旦那さんはその辺どう思いますか?」とおまけみたいな感じで父親に話が振られ「私も仕事で夜遅く帰宅することもあってなかなかサポートできなくて云々」みたいに半ば言い訳のような答えをするというのがいつものパターン。

完全に、育児の主役は母親で父親は脇役という構図になっている(たまに「パパ達の本音」と銘打って父親をフィーチャーした回もあるが、せいぜい年に数回ほど)。

今の日本社会の現状を反映していると言われればたしかにそうかもしれないし、スタジオで質問しようと思う父親が少ないから母親メインの形にならざるをえないという現場の事情もあるのかもしれない。

ただ、子育て世帯の半数が共働きであるにもかかわらず家事・育児負担が母親に大きく偏っている社会状況を考えれば、父親の当事者意識をもっと高めるような番組の姿勢が必要なのではないか。公共放送の育児番組が家庭内の育児負担の不均衡という社会が抱えている大きな問題から目を逸らすようなことはあってはならないと思う。

ワンオペが大変だと語る母親の隣に無言で座る父親の姿がテレビに映し出されるたびに私は異様な印象を受ける。

「子育てにおける父親の存在感の希薄さ」の背景に企業の長時間労働など社会的な要因があるならそこにも切り込んで欲しいし、「母親は家庭で家事・育児」「父親は外で仕事」といったような社会が押し付けるジェンダーロールの問題があるのであれば(というか間違いなくあると思うが)、そこをもっと深掘りして欲しい。

スタジオで悩みを吐露する母親に寄り添うだけでなく、彼女達の最も近くにいるはずの父親に向けたメッセージをもっと発信して欲しい。周囲のサポートが必要であるなら、母親にお願いの仕方を教えるのでなく父親に向けて当事者意識を持ち、自ら動くために頭を使うよう促して欲しい。「男は〇〇な生き物だから」と家事・育児における指示待ちスタンスを正当化するような言葉をなんの注釈も入れずに放送しないでほしい。

日本のテレビ番組で信頼性の高い情報を定期的に提供してくれる育児番組は「すくすく子育て」くらいしかないと思う(私が知らないだけかもしれないけど)。だからこそ、母親への対処療法的なアドバイスだけでなく、そのパートナーに向けた言葉を聞きたいし、社会的な課題への言及もしっかりお願いしたい。公共放送の育児番組に対してこれらが「要求しすぎ」だとは全く思わない。

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