【書評】高橋源一郎×SEALDs「民主主義ってなんだ?」感想

高橋源一郎とSEALDsのメンバーの対話を収録した『民主主義ってなんだ』(河出書房新社)を読了した。以下、感想です。

問い続けること。考え続けること。話し合うこと。

かれこれ10年以上前、政治学を専攻していた学生時代、『デモクラシーの論じ方』という本を読んだ。政治学者の杉田敦氏が書いた本で、議会制度や憲法、同意形成のプロセスなどについて架空の登場人物が問答するという形になっている。Aがデモクラシーを定義するとすかさずBがそれに反論する。Aの主張にもBの反論にも説得力があり、読み進めるにつれて頭が混乱してくる。デモクラシーとは、民主主義とは一体何なのか、読了後も明確な答えは出ないのだが、A、B両者の問答に導かれて段々と理解が深まっていくことを実感する、不思議な本だった。

高橋源一郎SEALDsメンバーの対談を収録した本書『民主主義ってなんだ?』を読み終えた後にも、似たような感覚を覚えた。

民主主義という掴みどころのない概念は、安易に結論を出すことを許さず、あれこれと悩み続けること、考え続けることを要請する。畢竟、「結局は多数決だ」とか「選挙が全てだ」などとしたり顔で断じる人々は、民主主義についてまともに考えたことがないか、考えることに疲れ、やめてしまったことを自ら表明している、ということになる。

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本書のタイトルにもなっている「民主主義ってなんだ?」という言葉は、SEALDsがデモで行うコールである。これは元々ウォール街を占拠した抗議運動、オキュパイ・ウォール・ストリートのデモで行われていたコール“Tell me what democracy looks like!”に由来する。

これに対し、“This is what democracy looks like!”と答えるのだが、SEALDsでは当初、「民主主義ってなんだ?」というコールに「なんだ!」とレスポンスしていた。

これは、民主主義の意義を問いかけ、考えることがデモの主要なテーマの一つになっていたことを意味する。そして気が付くと、自然発生的に「これだ!」というレスポンスが返されるようになったという。

おそらく自分たちが行っているデモを指して「これが民主主義だ」と叫んでいる、だけではない。彼彼女らは専門家を呼んで勉強会を開き、デモのあり方についてメンバー間でディスカッションし、自分たちの声をどのように届けるか、表現するかについて思考錯誤してきた。投票を促すTシャツを作ったり、秘密保護法や安保法制といった多くの若者が距離を感じてしまう問題を分かりやすく解説する動画を作成した。SEALDs結成以前から行っているそれらの活動の総体を、実感を込めて「民主主義」と彼彼女らは呼んだのではないだろうか。

「これだ!」と思う瞬間があってもそれで終わるわけではない。考えること、悩むことを止めない。SEALDsメンバーの奥田愛基は丸山眞男の永久革命に言及した後にこう続ける。

奥田:今日は「民主主義ってこれだ!」って高いテンションで言っているのに、来週集まったときはやっぱり「民主主義ってなんだ?」と問いかける。
牛田:話し合うこと、迷うこと自体がすごく民主主義的なんだよね。

学生時代に「これが民主主義だ!」と感じられる瞬間などなかった私は、本書を読み終えて軽い嫉妬を覚えた。

本書では、キャンパスライフと路上のデモが違和感なく共存する「今どき」の若者の姿を垣間見ることもできる。SEALDsメンバーそれぞれの多様な生い立ちも興味深く読んだ。巻末のSEALDsメンバー三人の言葉も全文引用したいくらいに素晴らしい。是非、多くの人に呼んでほしい。

▼新刊『SEALDs 民主主義ってこれだ!』(大月書店)のレビュー記事はこちら

【書評】SEALDs編著『民主主義ってこれだ!』レビュー