【書評】SEALDs編著『民主主義ってこれだ!』レビュー

SEALDsメンバー自身の手による、「伝える力」が凝縮された一冊

どれだけ正しいことを主張してもそれが伝わらなければ無意味だ。今の政治状況を見ているとそんな風に思ってしまう。自公連立政権が国政選挙で圧勝を続け、結果として安倍政権の強権政治を許してしまっている要因の一つには、リベラル側の伝える力の欠如があるのではないか。自分たちの正しさに安住し、マスに訴えかける方法を洗練させる努力を怠ってきたのではないか。

安保法制反対デモで注目を集めたSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)は、これまで人々が抱いていたデモのイメージを刷新した。Tシャツ、フライヤー、プラカード、インターネット上の動画、全てが抜かりなくデザインされている。彼彼女らはどう魅せるか(どう見られるか)についての意識が高い。それは、おぞましさと滑稽さがない交ぜになった在特会のコスプレパレードと比較すれば一目瞭然だ。

安保法制の強行採決後に出版された本書、『民主主義ってこれだ!』(大月書店)は、SEALDsのメンバー自身が撮影から編集、デザインまでを手がけている。

端的に、とても読みやすく、まとまっている。デモにおける学生たちのSpeech、各々が自身の考えを述べるMonologue、SEALDsメンバー三人によるDialogue、高畑勲や茂木健一郎、後藤正文といった各界の著名人からの応援のMessage等が、路上の臨場感溢れる写真と共に適切なバランスで散りばめられ、この1冊でSEALDsが何を語っているのか(Our voice)、何者なのか(What’s SEALDs?)、どこから来たのか(Where we are from)、どんな活動をしているのか(SEALDs act)について理解できる。この構成力、編集力は凄い。

本書には、参議院特別委員会公聴会におけるSEALDsメンバー奥田愛基の意見陳述全文や彼と高橋源一郎の安保法制成立後に行われた対談(Our Democracy)も収録されている。

さらに、東京から飛び火し全国に広がったSEALDsの活動(SEALDs KANSAI、SEALDs TOHOKU、SEALDs RYUKYU)についても、メンバー自身の言葉を通して知ることができる。

SEALDsの前身SASPL誕生前夜のエピソードを紹介している、巻末の泉智氏の文章もまた興味深い。

震災以後、“ローカルな社会運動っぽいことをやっていた”泉氏は、後輩の従弟だった奥田愛基にこんなアドバイスをしたそうだ。

自分がNOだと思うんならはっきりNOと言うこと。学問的な知識とデザインの両方のクオリティを、しっかりとしたものにすること。そして、その場しのぎのアクションじゃなく、自分と日本社会の、この先10年、20年を見据えて行動すること。

自分たちの活動をどう魅せる、デザインするかに長けたSEALDsが持つ強味は、結成以前から醸成されてきたものだということがこのエピソードから伺い知れる。

以前感想を書いた『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)は、民主主義という掴みどころのない「やっかい」な概念について、高橋源一郎を案内役としてSEALDsメンバーが思索を深めていく、その過程を共に経験するといった内容の本だった。

今回の『民主主義ってこれだ!』は、まさに2015年現在におけるこの国の民主主義の最前線をありありと見せてくれる。

この夏、路上で声を挙げた人や、その様子を見守っていた人、デモのライブ配信を観るためPCやスマホにかじりついていた人は皆、自宅の本棚に置くべき一冊だと断言できる。さらに言えば、デモなんて無意味だとSEALDsの活動を冷笑していた人たちにも是非読んで欲しい。この本は、そういった人々にも訴えかける力を持っていると思う。

『民主主義ってなんだ?』の感想記事はコチラ

【書評】高橋源一郎×SEALDs「民主主義ってなんだ?」感想

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