これまでの育児を振り返ってみて最も大変だったと感じるのは、子どもの夜泣きと寝かしつけです(イヤイヤ期の対応もかなりキツかったですが・・)。
娘の夜泣きは0歳半頃から2歳頃まで続きました。
今回は夜泣きが激しかった時期を思い起こしつつ、親・保護者のストレスやイライラを軽減するのに重要な周囲の理解について考えたいと思います。
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目次
孤独な夜泣き対応。一人で担うのは辛い
夜に何度も起きて大声で泣くというそれだけでも夜泣きは親・保護者にとってつらいものです。睡眠時間も削られますし体力的なしんどさもあります。
頻繁に夜泣きを繰り返す子どもだった場合、一人で対応するというのは相当ハードです。心身ともにものすごく疲弊します。
しかしこのような無理ゲーとも思われる夜泣き対応を多くの母親が一人で担っているという実態があります。
第一生命経済研究所が2013年10月に実施した調査では、就寝中の対応(夜泣き・排泄などへの対応)について「非常によくしている(した)」と答えた父親は11.1%、「時々している(した)」と答えたのが27.2パーセントという結果でした(小学生以下の子どもを持つ父親694人が対象)。
夜泣きをメインで担っている父親はたった10%ほどしかいないのです。
この調査結果は「夜泣きは母親がやるもの」といった世間のイメージをそのまま表していると言えると思います(子育て中の知り合いの話を聞いても、夜泣き対応は母親がやっているケースがほとんどです)。
1都3県の居住者が対象の調査なので、地域によってはさらに夜泣き対応している父親の割合は少ないかもしれません。
泣きやませろプレッシャー
夜中に何度も起こされて対応しなければならないことによる心身の疲労、睡眠不足は言うに及ばず、そこに加えて「泣きやませろ」というプレッシャーを感じている方も多いのではないでしょうか。
祖父母と同居している場合には気を遣ってしばらく泣かしっぱなしにできない人が多いでしょうし、義父から「うるさい」やら「泣きやませろ」等言われたという話を見聞きしたことも一度や二度ではありません。
こういった周囲からの泣き止ませろプレッシャーが夜泣きの辛さを倍増させ、イライラを募らせ、ストレスの矛先が子どもに向いてしまうということもあるでしょう。
さらに最悪なのは同居する夫が夜泣きに対応するどころか「うるさい」やら「泣き止ませろ」やら「仕事で疲れてるんだよ」やら大変な思いをしているパートナーに向かって暴言を吐くというケースです。
Twitterなどでも「子どもの夜泣きで旦那にキレられた」などという話を目にすることがよくあります。
「正しい対処法」が当事者を追い込む
深夜に子どもが大声で泣くと「早く泣き止ませなきゃ」と焦って自分を追い込んでしまう人も多いと思います。
これは「泣き止ませろ」という周囲から受ける圧力(ときに無言の圧力)と裏表の関係にあると言えるでしょう。
さらに、「夜泣きは適切な対応をすれば収まるもの」という考え方を見聞きすることが夜泣き対応の当事者を追い込むこともあります。
たとえば「添い乳での寝かしつけが夜泣きの原因」という情報を目にすれば、なかなか卒乳(断乳)できない自分の対応に問題があるのではないかと考えるようになるでしょう。
主に欧米で行われているスリープトレーニング(ねんねトレーニング)など、乳幼児の夜泣きへの対処法として信頼性が高いとされている方法は存在しますが、住宅事情や同居の家族の無理解等によりそれらを実践することができないケースもあります。
※スリープトレーニング(ねんねトレーニング)とは、夜に子どもが泣いても全く対応しなかったり、しばらく泣かせた後にあやすなどして子どもが一人で眠ることができるようにサポートする方法です。
「子どもが夜泣きするのは正しく対処できていない自分の責任だ」と思ってしまうことで、当事者はさらに辛い状況へと追い込まれます。
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「夜泣きは治るもの」とされてしまうことへの不安
以前、「夜泣き外来」開設というニュースを目にしました。
赤ちゃん専用「夜泣き外来」 親の精神的負担緩和にも期待 https://t.co/wGHz0kkshW#神戸新聞 #医療 #睡眠障害 pic.twitter.com/eZm82wXDna
— 神戸新聞 (@kobeshinbun) 2018年7月29日
このニュースの要旨をざっくりまとめると以下の通りです。
- 対象は夜泣きする4歳未満児とその母親
- 通常の生体リズムを身に付けるための指導を行う
- 必要なら睡眠に関わるホルモン「メラトニン」も投与する
- 発達障害の予防や早期発見にもつながる
- 情緒不安定な母親が子どもを虐げる恐れがある時などは入院治療
「発達障害の予防」なる言葉が使われていたり、このニュースには違和感を覚える箇所がいくつかあったのですが、特に私は夜泣きが一様に「治せるもの」とされてしまうのではないかという懸念を抱きました。
先ほど紹介した神戸新聞の記事では、「夜泣き外来」の対象を以下のように説明しています。
夜中眠れずに何度も起きて泣く▽ぐずってなかなか寝付かない▽日中機嫌が悪い-といった症状に悩む4歳未満児とその母親。
これを読む限りでは、かなり対象が広いという印象です。夜泣きが大変だった当時の私の娘も完全にこれに当てはまります。
激しい夜泣きを少しでも緩和できるならとの思いを抱える保護者のことを考えれば、診療・治療が可能なこうした場へのニーズが高いことは容易に想像できますが、夜泣きが一様に治療の対象とされ「治るもの」とされてしまうことに対してはやはり不安を感じざるを得ません。
「夜泣き外来」を開設した兵庫県立リハビリテーション中央病院のHPには、夜泣き(乳幼児睡眠障害)という記述があり、夜泣きを乳幼児期の睡眠障害として一括りにしています。
このような書き方は夜泣きそれ自体を一様に治療すべきものと考えているように思えてしまうのですが・・・
※その他にもこの病院のHPには「深夜にコンビニに子どもを連れ回す親」だとか「スマホ育児批判」など、小さな子を持つ親に対する偏見に満ちていて、色々と不安にさせられます。
いずれにせよ、夜泣きが治るものという考えが広まり、夜泣き対応している当事者(多くの場合は母親)が周囲から「泣きやませられないのはお前の責任だ」と責められるような状況にならないことを祈るばかりです。
夜泣きは「治す」べきなのか?
そもそも、夜泣きは必ず治療しなければならないものなのでしょうか。
夜泣きは普通のことで、子どもの発達を考えた上でも特に心配する必要はないという専門家もいます。
NHK Eテレの「すくすく子育て」に出演した小児科医の榊原洋一教授は、番組内で夜泣きについて以下のようにコメントしています。
「夜泣きはすごく激しく泣くので、どこか悪いんじゃないか?と心配になってしまうお母さんがいるみたいですが、そんなに心配することではありません。また、ずっと泣かせていると病気になるというのも、なんの根拠もない話です。現に海外では、”夜泣いていても、30分~1時間泣かせておけば泣き止むので放っておきましょう” というふうに書いてある育児書もあるくらいですよ。極端な話、お母さんが夜泣きに気づかずに寝てしまっていても、まったく平気なんです。」
また、同じく「すくすく子育て」で黒田公美さん(理化学研究所・脳科学総合研究センター 脳神経科学)は夜泣きについて以下のような見解を示しています。
夜泣きの多くは一時的なもので、それが将来の子どもの発達や学校の成績に関係することは、ほとんどありません。
しかし、夜泣きがあまりにひどいと、親がストレスのためにまいってしまったり、ひどい場合はうつ状態になってしまったりします。そのことが子どもに伝わり、発達に影響を与えてしまうということはあります。
大切なことは「親が夜泣きによってストレスを溜めない」ということです。
子どもの発達に影響があるとするならそれは夜泣きそれ自体ではなく、親のストレスだという見解です。
このように、夜泣きそれ自体は普通のことであり、心配する必要はないという意見が専門家から出されています。
うちの娘も2年間ほど続いた夜泣きはかなり大変でしたが、現在、発達上特に問題を抱えてはいません。すくすく健康に育っていると思います。
先ほどの「夜泣き外来」のニュースについて私が懸念するのは、夜泣きが治療できるもの、すべきものという理解(私は誤解だと思いますが)が、広まることです。
夜泣きに悩む親・保護者が、「治さなければならない」とか「夜泣きさせてしまうのは自分の育て方が良くないからだ」といった気持ちを抱いてしまうのであれば、それこそストレスを増大させ、子どもとの関係に悪影響を及ぼす可能性があるのでは?と思ってしまいます。
我が家の夜泣き体験|虐待の通報をされた話
私たち夫婦は両親と同居はしていませんでしたが、マンション住まいなので娘の泣き声にはかなり気を遣って生活していました。
一番夜泣きが酷かった時期に娘が風邪を引き、いつも以上にギャン泣き状態だった日の夜には虐待の通報をされてしまい、翌朝市役所の人の訪問を受けたことも。
それ以来、心の余裕がなくなって娘が泣くとすぐに「泣き止ませなきゃ」と焦ってしまうようになり、なかなか泣き止まない娘にイライラを募らせる日々が続くことになります。
この時ほど、虐待する人の気持ちが理解できてしまったことはありません。
もちろん虐待にはさまざまなケースがあるでしょうし私たちも実際に娘に虐待するようなことはなかったのですが、虐待を疑われ訪問を受けたという事実が保護者のストレスを増大させ、虐待リスクを高めてしまうという逆説的な結果になるということを当事者として経験したことは大きかったです。
当時の私たちが夜泣きを収めるための正しい対処法として、泣いてもすぐに対応せずある程度泣きっぱなしにさせる「ねんねトレーニング(スリープトレーニング)」のようなものを実践できたかと言えばそれは全く不可能だったと断言できます。
夜泣きしてもすぐに授乳しないとか、すぐに抱っこしてあやさないというような方法は、日本の住宅事情を考慮すれば周囲の理解があって初めて実戦できるものではないでしょうか。
私たちの場合は、また虐待の通報をされるのではないかという不安からそれまで以上に娘の泣き声に敏感になり、しばらく放置するなどという方法はあり得ない選択肢でした。
通報をした人が誰かということは通報された側には開示されませんので、直接訪問して理解を求めるなどということはできませんし。
まとめ|赤ちゃんの泣き声に寛容な社会へ
つらい夜泣き対応について書いてきましたが、私がこの記事で言いたかったことは以下の2点です。
- 夜泣きの対応はシェアすべき
- 周囲の理解が重要
夜泣きを一人で全て担うというのは体力的にも精神的にもかなりの負担です。
パートナーがいるならば負担をできる限りシェアすべきだと思います。
共働きであってもそうでなくても、曜日を決めたり時間で区切るなどして寝かしつけを分担するというのは不可能ではないはずです。仕事をしているからという理由だけで夜泣き対応を免除されるというのはおかしな話だと思います。家事育児も立派な労働ですし。
眠れないことで翌日の仕事に響くということもあるかもしれませんが、睡眠不足の状態で乳幼児を抱えながら家庭内の無償労働をこなすこともめちゃくちゃ大変です。
もちろん各家庭にそれぞれのやり方やバランスがあるとは思いますが、寝かしつけや夜泣き対応の負担が母親に偏っている現状を考えると、「夜泣きは母親がやるもの」という思い込みが社会の中に根強くあることを感じざるを得ません。
そして、夜泣きについて周囲の理解が得られず「早く泣きやませろ」などと無理難題を突きつけられる状況では当事者はさらに追い込まれます。
これは夜泣きに限らないことですが、日本社会は赤ちゃんの泣き声に対する寛容さが欠落していると思います。電車やバス、レストランなどで泣いている子どもとその親へ向けられる非難の言葉は異様なものがあります。
そもそも子どもは制御不可能な存在で赤ちゃんはそう簡単に泣きやみません。時には無理にあやさずそのまま放置することが最適解であるというケースもあります。こういった知識を持たない人が世の中にはとても多く、泣きっぱなしにする親への風当たりは日に日に強くなっている印象です。
出産や育児へのしっかりとした知識は、子育て世代だけでなくこの社会を構成する人々全員に必要なものでしょう。
社会全体が赤ちゃんの泣き声にもっと寛容になれば、夜泣き対応の当事者たちの負担も大きく軽減できるのではないかと思います。
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