ラ・ラ・ランドの感想&評価|消えゆくアート。それでも若者は夢を見る

デイミアン・チャゼル監督のミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(原題:La La Land 2017年2月24日公開)を観ました。

映画のタイトル『La La Land』は、アメリカ・ロサンゼルスのことを意味する言葉で、ハリウッドを中心に夢を追う人々が集う場所であることから、「夢見がちな現実離れした人」といった少し否定的な意味合いで使われることもあります。

そんな夢追い人の街LAで出会った女優志望のミアとジャズピアニスト、セバスチャンの恋模様を描いたのが本作『ラ・ラ・ランド』です。

2016年ナンバー1映画と評価する人も多く、英国アカデミー賞やゴールデングローブ賞など、各映画賞をことごとく受賞。

日本時間の2月27日に授賞式が行われた第89回アカデミー賞では史上最多タイとなる14ノミネート(13部門)を果たし、監督賞、主演女優賞など全6部門を受賞しました。

以下、傑作ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』の感想、キャストや制作背景、評価などをまとめました。

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ララランド感想|音楽と映画への愛に溢れた傑作

※以下、感想です。ネタバレは最小限にとどめています。

理想と現実のはざまで

映画の舞台は夢追い人が集まる街LA(La La Land)。夢を追いかける二人の若者が、度々訪れる偶然の出会いを経て恋に落ちます。

主人公のミア(エマ・ストーン)は、女優になるという夢を抱きながら撮影所の中にあるカフェで働いています。時折カフェを訪れる有名女優に憧れの眼差しを送り、店の目の前にある映画『カサブランカ』が撮影されたセットを嬉々として眺める日々を送る彼女ですが、オーディションでは落ちてばかり。

もう一人の主人公セブ(ライアン・ゴズリング)は、マイルス・デイヴィスやセロニアス・モンク、ジョン・コルトレーンに憧れるジャズピアニスト。ホーギー・カーマイケルが座っていたという椅子を宝物のように大事にする、ジャズに人生を捧げているような青年です。 自宅のピアノでセロニアス・モンクの1966年のアルバムに収録されている『Japanese Folk Song(荒城の月)』(滝廉太郎の『荒城の月』を元にした曲)のレコードをかけながら同じフレーズを繰り返し練習する彼の夢は、いつか自分のジャズクラブを持つこと。

夢に向かって邁進する二人ですが、その舞台となるLAも時代の波には逆らえず、作中ではアートが失われゆく街の様子が描かれます。

名画を上映していた街の映画館は潰れ、ジャズクラブは姿を消し、求められるのは大衆に受けるものばかり。

雨に唄えば』や『理由なき反抗』、『サンセット大通り』など、各所にハリウッド黄金時代の名画へのオマージュがちりばめられた本作ですが、あくまでも舞台はアートが街から失われつつある現代のLAです。

この時代にアートを志す若者たちは、自分の目指す夢と現実の間で折り合いをつけることを余儀なくされます。

セブもそんな人間のうちの一人。

ある日、学生時代の友人キース(ジョン・レジェンド)率いるバンド「ザ・メッセンジャーズ」のキーボードに誘われたセブは、本来自分が志してきた音楽とは異なる楽曲を演奏し、生活の糧を得るようになります。

ミアと出会ったばかりの頃、周りの反応など知ったこっちゃないと口癖のように語っていたセブが、安定した収入のために「大衆受けする」音楽を演奏するようになる。

現実と理想の狭間で揺れ動くアーティストの葛藤にリアリティを持たせているのは、ザ・メッセンジャーズが演奏する楽曲『START A FIRE』の完成度の高さです。キースを演じるグラミー歌手ジョン・レジェンドが制作したこの曲は映画のサントラにも入っていますが、ヒットチャートにランクインするようなノリの良い曲で、一聴しただけでは「この曲、全然いいじゃん」と思ってしまいます。

▼ジョン・レジェンドが歌う『START A FIRE』

しかし、映画序盤にジャズクラブ「Lighthouse Cafe」でセブは、ジャズが嫌いだと言うミアに向かって「ジャズとは演奏者それぞれがその曲を自分なりに解釈し、自己主張をぶつけあう音楽だ。だから演奏するたびに新しいものが生まれる(うろ覚えなので正確ではありません)」と語っており、それを踏まえて聴くと、『START A FIRE』においてセブが奏でるキーボードの音は、ボーカルを中心としたメロディラインに従属する単なる引き立て役にしかなっていないようにも感じられます(あくまでも監督デイミアン・チャゼルのジャズ感に照らし合わせて聴くとですが)。

店の開業資金のために始めたはずのバンド活動にいつしかどっぷりとはまっていくセブ。

理想を追求することと、広く受け入れられること

この二つを両立することの難しさが、セブの葛藤を通じて本作の中では示されています。

デイミアン・チャゼルがやってのけたこと

映画『ラ・ラ・ランド』にとっての「理想と現実」とは、黄金時代のハリウッドミュージカルの復活(理想)と興行的な成功(現実)ということになるでしょうか。

理想と現実の間で葛藤しているのは他ならぬデイミアン・チャゼル監督自身なのかもしれません。

往年の名画のオマージュに溢れる本作からは監督の映画への深い愛が伝わってきます。

渋滞する車の列を横から映し出すカメラワーク、クラクションが飛び交うオープニングは、ジャン=リュック・ゴダールの『ウィークエンド』から。何の説明もなく延々と続く渋滞の列とやかましいクラクションが「一体いつまで続くんだ?」と観客を不安に陥れる(個人的にはそれがまた笑えるのですが)『ウィークエンド』とは異なり、『ラ・ラ・ランド』では一人の女性が車内で歌い出すのを合図に色とりどりの衣装を身にまとったキャストが一斉にダンスを踊り出します。

▼ゴダールの『ウィークエンド』予告編

▼オープニングシーンのリハーサルの様子

テクニカラー、大人数でのダンス。黄金時代のハリウッドミュージカルを想起させる圧倒的なオープニングから『巴里のアメリカ人』を再現するエンディングまで、本作は徹頭徹尾映画への愛を「これでもか」というくらいにさらけ出します。

ポップな主題歌やカラフルな衣装はジャック・ドゥミの『ロシュフォールの恋人たち』、ミアとセブの恋模様は同じくジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』、二人がマジックアワーのLAの街並みを背景にタップダンスを踊る場面は『雨に唄えば』を思い起こさせます。

しかしこの映画は、単に過去の名作を模倣・反復するだけではなく、現代の観客に「うける」作りにもなっています。

前作『セッション』で示されたように、デイミアン・チャゼル監督はテンポの良さと動きのあるカメラワーク、畳みかけるような展開が特徴的です。

上映中、観客を全く飽きさせることのない演出力、構成力は、彼が現代の映画業界で一足飛びに成功できた要因の一つと言えるでしょう。

そして今回はミュージカルというジャンルによって彼の映像作家としての能力がさらに引き出されています。

いきなり登場人物が歌い出したり踊りだしたりすること自体がそもそも「リアル」ではないミュージカルは、元来「リアリズム」のハードルが低いジャンルであり、その分観客は映画を観ている間、ある程度突飛なものでも受け入れられる心理状態にあります。

『理由なき反抗』の舞台であるグリフィス天文台で二人が宇宙にまで舞い上がってダンスをする場面や、終盤の夢と現実が入り乱れるシーンに見られるように、ミュージカルというジャンルが持つ映像表現の自由度を拡張するという特性が、チャゼルという作家の個性に非常にマッチしていたように感じられました。

※夢と現実が交錯する場面はデヴィッド・リンチマルホランド・ドライブ』から。

過去の名作ミュージカルを『ラ・ラ・ランド』が進化させたとまでは言えませんが(ミュージカルファンからの手厳しい評価があるのも事実です)、少なくとも現代の観客向けの仕様にアップデートすることに成功したとは言えるのではないでしょうか。

もちろん、女優志望のミアを演じるエマ・ストーン(オーディションでまともに演じさせてもらいないときの困惑の表情は素晴らしい)と軽く弾ける程度だったピアノを3か月の猛特訓によって上達させ、見事(手元のアップさえも)代役なしで演じ切ったライアン・ゴズリングの演技が本作の完成度をさらに高めていることは言うまでもありません。

そして、ミュージカル映画やジャズが死にかけている(?)この時代に、無謀ともいえるプロジェクトに果敢に挑戦し、見事成功を収めた1980年代生まれの若き才能に脱帽です。

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ラ・ラ・ランド|監督・キャスト

監督はデイミアン・チャゼル

映画『ラ・ラ・ランド』の監督・脚本はデイミアン・チャゼル。1985年生まれと若い監督ですが、第2作目となる映画『セッション』が低予算ながら非常に高く評価され、アカデミー賞ではJ・Kシモンズの助演男優賞をはじめ3部門を受賞、一躍映画界のホープとなりました。

チャゼルが本作『ラ・ラ・ランド』の構想を思いついたのはハーバード大学在学中。大学の卒業制作では、先行的作品とも言えるボストンのジャズミュージシャンを描いた短編映画『Guy and Madeline on a Park Bench』を制作しました。

『Guy and・・』では一部分しか描けなかった彼の構想をついに実現したのが本作『ラ・ラ・ランド』となります。

第89回アカデミー賞では史上最年少で監督賞を受賞しました。

▼アカデミー賞では監督賞を受賞。

エマ・ストーン(ミア役)

ロサンゼルスで女優を目指す主人公ミアを演じるのは『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』、『アメイジング・スパイダーマン』のエマ・ストーン

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』では、アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされました。

本作『ラ・ラ・ランド』では第89回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、見事に受賞しました。

2014年には『キャバレー』でブロードウェイデビューを果たすなど、ミュージカルへの出演経験もある彼女ですが、本作『ラ・ラ・ランド』では素晴らしい歌のみならず華麗なダンスも披露しています。

▼ミアを演じるためにタップダンス、ジャズダンス、社交ダンスの特訓をしたと語るエマ・ストーン。

ちなみに、本作の振り付けには、人気ドラマ「glee/グリー」(2009~2015)や映画『世界にひとつのプレイブック』(2012)を手掛けた振り付け師、マンディ・ムーアが起用されています。

gleek(gleeの大ファン)は必見の映画ってことですね。

※どうでもいいですが、私もgleekです。

ライアン・ゴズリング(セバスチャン役)

もう一人の主人公、ジャズピアニストのセバスチャンを演じるのは、『きみに読む物語』、『ドライブ』、『ラブ・アゲイン』のライアン・ゴズリング

▼1月には、映画のPRでデイミアン・チャゼル監督とともに来日しました。

ピアノはほぼ素人ながら、撮影前に3か月間の猛特訓を敢行。映画では見事な腕前を披露しており、実際にライアンが演奏している音が劇中で使われています。

劇中の何気ないしぐさ(特にタップダンスを踊るシーンでミアにちょっかいを出すところ)から、私はゴダール『勝手にしやがれ』、『気狂いピエロ』のジャン=ポール・ベルモンドを連想しました。人の気配や物音にワッと驚く場面もお茶目で笑えます。

▼とても素人は思えない指さばき見せるライアン・ゴズリング。動画の中に出てくる”YOU CAN WRITE YOUR OWN RULES”という言葉もいいですね。

ちなみに、デイミアン・チャゼルは当初、主人公カップルにエマ・ワトソンと『セッション』で主人公を演じたマイルズ・テラーを考えていたそうですが、諸事情により実現せず(契約交渉が上手くいかなかったなど様々な憶測が流れています)。今となってはエマ・ストーン&ライアン・ゴズリングで良かったと誰もが思っているのではないでしょうか。

J・K・シモンズ(ビル役)

セバスチャンがピアノを演奏するレストランの経営者ビル役には、J・K・シモンズ

チャゼル監督の前作『セッション』では暴力的な鬼音楽教師を演じアカデミー賞助演男優賞を受賞しました。

▼レストランのオーナー、ビルを演じるJ・K・シモンズ。『セッション』の印象が強いので、いきなりブチギレるんじゃないかとソワソワします。

ジョン・レジェンド(キース役)

セバスチャンが加入するバンド“ザ・メッセンジャーズ”のミュージシャン、キース役をグラミー賞に10度輝いたジョン・レジェンドが演じています。

映画の中でメッセンジャーズが演奏する曲「スタート・ア・ファイア」の楽曲制作も務めました。

▼初の映画出演について語るジョン・レジェンド。撮影のためにギターも練習したとのこと。

この他、フィン・ウィットロックローズマリー・デウィット、日本生まれで日系イギリス人女優のソノヤ・ミズノなどが出演しています。

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映画『ラ・ラ・ランド』を観た人の感想&評価

すでに映画を観ている人の感想をまとめました。

映画評論家などの感想は?

▼映画評論家町山智浩さんのツイート。町山さんはTBSラジオ『たまむすび』内でも『ラ・ラ・ランド』を絶賛していました。

▼『君の名は。』の新海誠監督の感想ツイート。

▼メタルギアシリーズで知られるゲームクリエイター小島秀夫氏は、あと10回は観ると宣言。

▼イラストレーター、エッセイストの石川三千花さんのツイート。

▼漫画家の今日マチ子さんはSPRiNG(宝島社)の連載コラムにイラスト付きで『ラ・ラ・ランド』を紹介しています。

もちろん、『ララランド』に対する評価は称賛の声ばかりではありません。セッションを糞みそにこき下ろし、町山智浩氏と論争を繰り広げたジャズ・ミュージシャンの菊池成孔氏は、「こんなもん全然大したことないね」と酷評レビューを書いています。

まあ、ララランドに対して厳しい評価をしている人は他にもけっこういますから、「世界中を敵に回す覚悟」というのは大げさだと思いますけどね(笑)。

Rotten Tomatoes

映画批評サイトRotten Tomatoesでは、批評家支持率92%、観客支持率82%という評価を得ています(2017年8月2日現在)。

大絶賛されている映画の割には観客支持率が少し低く感じられますが、レビュー総数が65,000を超えている中でこの数字はかなり高いと言えると思います。

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賞レースでは総なめ状態。アカデミー賞の結果は?

次に、各映画賞での評価を見ていきます。

アカデミー賞で14ノミネート

第89回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、主演男優賞ほか、13部門14ノミネートを果たしました。

※歌曲賞(主題歌賞)に“Audition(The Fools Who Dream)”と“City of Stars”の2曲がノミネート。

14ノミネートは『イヴの総て』(1950)、『タイタニック』(1997)と並ぶ史上最多記録。

これまでの最多受賞は、『ベン・ハー』、『タイタニック』、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の11部門。

この記録を抜くかどうか注目を集めていましたが、結果は監督賞や主演女優賞など、全6部門の受賞にとどまりました。

作品賞の発表では、いったん『ラ・ラ・ランド』と読み上げられるも、「本当はムーンライトでした」という全体未聞の珍事が起こり、受賞は逃しました。

▼アカデミー賞始まって以来の珍事の瞬間はこちら

ゴールデングローブ賞で7冠達成

第74回ゴールデン・グローブ賞では作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、主演女優賞、主演男優賞など、7部門にノミネートされ全て受賞するという快挙を達成しました。

ゴールデン・グローブ賞での7冠は史上最多受賞となります。

英国アカデミー賞で5部門受賞

第70回英国アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、撮影賞、作曲賞の5部門で受賞しました。

その他にも、ニューヨーク映画批評家協会賞、放送映画批評家協会賞、全米監督組合賞など各映画賞で数多く受賞しています。

あらすじ・予告編・上映館情報

あらすじ

映画の舞台は夢追い人の街ロサンゼルス。オーディションに落ち続ける日々を送る女優志望のミアはある日、ジャズピアニストのセバスチャンと出会う。最初はぶつかり合う二人だったが、だんだんと惹かれ合い恋に落ちる。いつか自分の店を持ち、思う存分にピアノを演奏したいと考えていたセバスチャンは店の資金集めのためにバンドに加入することに。しかしバンドが成功を収めたことから二人の心にもすれ違いが生まれ初め・・・

『ラ・ラ・ランド』予告編

基本情報

公開日:2017年2月24日(金)
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
キャスト:エマ・ストーン、ライアン・ゴズリング、J・K・シモンズ、ジョン・レジェンド
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
制作年:2016年
上映時間:128分

上映館

『ラ・ラ・ランド』はTOHOシネマズ、イオンシネマほか全国で公開されました。

TOHOシネマズ新宿やTOHOシネマズなんば、109シネマズ名古屋、ユナイテッド・シネマキャナルシティ13他でIMAX上映が予定されています。

東京近郊にお住いの方に個人的におすすめしたいのは、立川シネマシティです。立川シネマシティでは極上音響上映が行われており、音響設備にかなりこだわっています。私は『ラ・ラ・ランド』も『セッション』も立川シネマシティで観ましたが、ものすごい迫力でした。

今年上半期はミュージカル、音楽作品が連続して上映されることを受けて、さらなる音響の高みを目指してaスタジオの側面と後方を取り巻くサラウンドスピーカーを、meyer sound社の最新サラウンドスピーカー〝HMS-15〟に新調。『ラ・ラ・ランド』初日がお披露目になります。
(立川シネマシティHP)

早くもミュージカル史に残る傑作との評価も聞こえてきている映画『ラ・ラ・ランド』。ぜひとも映画館で観て頂きたい映画です。

以上、かつかつ主夫でした。

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